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 短い文章には、絵文字も記号もない。いつもの彼らしくないそれに、首を傾げながら電話をかけた。 『はい』 「あ、リック。メッセージ見たよ。どうし――」 『大和が、事故にあった』 「……え?」  咄嗟に言葉の意味が理解できなくて、「事故……」とリックの言葉を繰り返した。 『スタジオ練習終わって、帰る途中……バイクが、すげぇスピードで突っ込んできたらしくて……』  リックの声が揺れる。語尾が弱々しく消えるのを、どこか遠くで聞いた。 「……や、大和は……?……大丈夫なんだよな?」 『……大和は、……今、病院にいる』  リックからは、答えになっていない答えが返ってきた。スマホを握る手に汗が滲み、心臓がどくどくと激しく鳴る。 「ねぇ、大和、大丈夫なんでしょ?あ、あんな筋肉してんだから、バイクくらい……」  通話口から、リックが短く息を吐く音がした。まるで、泣くのを堪えるみたいなそれに、蓮の呼吸はもっと浅くなる。 『蓮』  将暉の声だった。リックと電話を変わったらしい。 「将暉……大和は?意識はあるんだよね?」  縋るように尋ねた。将暉なら、大和は大丈夫だよと言ってくれる気がした。 『……蓮、大和は三軒茶屋(さんちゃ)の病院に運ばれた。スマホに場所送るから、来られるか?』  将暉も大和の状態に触れることなく、静かな声で言った。冷静なその口調が、状況の深刻さを伝えているように感じて、頭の芯がぼんやり霞む。  通話を終わらせ、スマホを握ったまま立ち尽くした。  大和、事故、バイク、病院。単語だけが頭の中に散らばって、思考がまとまらない。  今日は砂川さんがいないから、タクシーを呼ばないと。タクシーを呼んで、大和に会いに行かないと。  思うのに、身体は少しも動いてくれない。  手の中でスマホが震え、びくっと肩が揺れた。  将暉から、病院の住所が送られてきた。  深呼吸をしようとして失敗する。それでも浅い呼吸を何回か繰り返して、震える指でタクシーアプリを立ち上げた。  タクシーで三茶の病院に向かいながら、車窓を眺めて気を紛らわせる。  大和は大丈夫だ。あいつが、簡単にどうにかなるわけない。  自分に言い聞かせる。信号待ちで止まったタクシーの横を、大型バイクがすり抜けて行った。  ――バイクが、すげぇスピードで突っ込んできたらしくて――  リックの言葉を思い出す。もし大和に何かあったら……そんな考えが頭をよぎって、目の奥がズキズキと熱くなった。息を止め、込み上げる涙を堪える。  こんなにも大和のことが好きなんだと、改めて理解した気がした。  日が暮れ始めた道路に、ヘッドライトが滲む。その光を睨むように見つめながら、ただひたすらに大和の無事だけを願い続けた。
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