1・クモノイト①

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1・クモノイト①

うがあ、蓮の花。 つやつやピカピカ蓮の花が白、ピンク。 そこに、白、黒、黄色、色とりどりの蝶が集まって、ちょうちょちょうちょ♪なんつって、長閑に飛んでますが、俺に取っちゃ飯。 なにせ俺は蜘蛛なので、上手に蓮の葉と葉の間に糸を張り、そいつらを待って引っかかった奴を捕食。弱肉強食。 俺らだって、鳥やカエルなんかに食われることあるからね、そこんとこよろしく。蝶が可哀そうとか言わないように。 そんなわけで、俺、さっきデカめのアゲハを捕食して満腹。蓮の葉の裏側に捕まって昼寝なんかしてたら、来たよ、あいつ。 俺、あいつ嫌い。釈迦。 ぶらぶらぶらぶら。 袈裟の端っこ引きずってお気楽な奴。 善人づらは苦労を知らないからだよなあ。 草を食ってろ、生き物を殺めるなだと?弱肉強食の世界に生きるなら他の生き物を殺めないといけない。そうしないと、こちらが飢える。 そこんとこ、この絶対優越の立場の方はわかってないらしい。 そんなわけで、現世で悪事を働いた人間たちがこの蓮の池にぽっかり空いた穴の下、所謂地獄って場所で毎日喘いでいるわけだけど、俺ならこの人間たちにちょっと同情するね。人間として生きていくのは一筋縄でいかない。きれいごとばっか言ってらんないよな♪って歌ったのはキングヌーだったっけか。まさしくそうで、真正直に生きることが難しい世界だという事は俺、よく知ってる。俺たち蜘蛛の世界みたいにシンプルじゃない。知らず知らず悪事に手を染め、そして地獄に落ちて。 でもさ、彼らみんな、一人一人の弱い人間に過ぎないんだよな。 あ、釈迦の奴、今日も穴から下を覗いてら。
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