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1・クモノイト②
穴から下を覗き込んだ釈迦が呟いた。
「ちょっとお、誰かを、助けてあげちゃおうかな。今日気分がいいしい」
お気楽前線異常なし。
ホントに腹が立つお人だ。ただ、俺は地獄に落ちた一人の人間に借りがあった。俺は、釈迦に向かって言った。
「釈迦さん、カンダタはいい奴。あいつ、助けてください。カンダタは、一回歩いてて俺を踏みそうになった所を思いとどまった。一寸の虫にも五分の魂を理解している奴です。ぜひカンダタに暖かいお心を」
釈迦は突然話し始めた俺に驚いたけれど、なるほど、と手を叩いた。
釈迦はいつもぶらぶらしてるだけだった。そもそもこいつの行動には大抵理由がない。そこにこんな風に理由を与えてやればほいほい乗ってくる。俺の企みは成功したかに見えたが、俺はこいつがアホだという事を忘れていた。
「では、そのカンダタとやらを助けよう。かくなる上は」
と言うと、なんと俺が尻から出して頑張って蓮の葉の間に張った糸を引っ張ったのだった。
「え?」
「何?蜘蛛」
「いや。あの、ご自分で下に降りて助けて来るんじゃないんですか?」
「まっさか。汚いもん、下」
「へ?」
「臭いもん、下」
「あ?」
「空気がさ、濁ってんだよね」
お前なあ。
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