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1・クモノイト④
俺は釈迦の掌から降りて、地獄へ続く穴の下を覗いた。
カンダタはべとつく糸を少しずつ上っている。
でも、途中で閻魔がトイレに立った。
そこを見計らってやってくる他の衆生。その数、数十人。
そりゃ、そうだよなあ。自分だけ助かろうとしやがってと思うよね。人情。
カンダタに続いてわしわしと糸を上ってくる衆生。
その先頭は、あ。
上島竜兵だった。
上島竜兵が必死の形相でカンダタに追いつこうとしていた。
それにしても、上島竜兵は多くの人に愛された稀代のコメディアンだったはず。なぜ地獄に?
「え?だって僕、お笑い好きじゃないんだもん」
自分の好みで人の人生を左右するんじゃないよ、釈迦。
と思ったら、あ、糸が切れた。
そりゃそうだ、いくら強いとは言っても蜘蛛の糸。数十人も捕まって平気なわけない。登山用ロープくらいじゃないとだめだ。無理筋。ホントに、釈迦のやることと言ったら、人間を試して楽しんでいるとしか思えない。
とは言え、俺はカンダタを助けてと言い出した本人だ。
責任などと言うものは感じないが、情位は感じることができる。
糸が切れる寸前、俺は極太の糸をカンダタと上島竜兵めがけて尻から出し、二人をからめとると、一気に穴から救い上げたのだった。
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