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1・クモノイト⑤
「ふう。死ぬかと思った」
上島竜兵が、額の汗を拭きながらつぶやく。
いやいや、極楽と地獄の差こそあれ、もう死んでますから。
まあ、お二人とも無事でよかった。
俺があの日助けられた蜘蛛だと知ると、カンダタは俺に礼を言った。
そして、釈迦はと言うと、さっきから穴の下をずっと覗き込んでいる。
「釈迦さん、どうしました?」
「いや、あのね。今、二人がここから出てきた拍子に僕のシュシュが落ちちゃってさ。あれ、結構するんだよね」
まあ、どうでもいい話ではある。
「ねえねえ。カンダタ。僕、君を救ってあげたよね。ちょっと一回下まで行って、取ってきてくんない?」
自分で行けよな。それにお前はカンダタを救ってないじゃん。
カンダタは断った。上島竜兵だって、断った。
俺が行くはずない。
「聞いてないよ」
なおも下を見ている釈迦。シュシュがどこに落ちたか見当がつかないらしく、上半身を穴の下に潜り込ませている。
「危ないから」
うん。
「絶対押さないでね」
その瞬間、上島竜兵のキックが釈迦の尻をとらえたのだった。
たちまち落下していく釈迦。
俺は、穴から下を覗き込んだ。糸に絡められた沢山の衆生の上で、釈迦がこっちを向いて叫んでいる。
「訴えてやる!」
<「降臨!」1・クモノイト 了>
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