先輩仕事やめるってよ

「前から考えていたんだ。それに、やるべきことはやり終えたから」

　先輩の話はこうだった。

　まず、給料の未払いが続いていたこと。なんと一年以上も。だから、前々から辞めることは検討していた。

　そして、自分が抜けた穴を埋める人員への引き継ぎの目処がたったこと。休日を返上して、他店のヘルプにも携わっていた先輩の仕事は、多岐に渡る。その引き継ぎがようやく終わったとのことだった。

　いかにも先輩らしい判断だった。

　給料を払わないような会社、直ぐにでも辞めたらいいのに、残された人が困らないように、引き継ぎを完璧に行う。

「先輩はお人好しですよ」

　僕の言葉に、

「そうかな」

　そう言って笑った先輩の笑顔は、強がりでも何でもなくて、自分の信念をやり抜いた清々しさに溢れていた。