先輩仕事やめるってよ

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「これからどうするんですか?」  僕は暑くなった身体を冷ます為に、湯船の淵に腰掛けて先輩に尋ねた。 「まあ、独り身だし、ぼちぼち考えるよ」  先輩も湯船の端に腰を掛けると、フウーッと大きく息を吐いた。 「ああ、癒されるわぁ」  先輩は両手を後ろに着くと、目を瞑って天井を見上げた。 「そうっすね」  僕も後ろに手を着くと目を瞑って、天井を見上げた。  そのまま、静かな時が流れていく。  近くを流れるせせらぎの水音だけが、サラサラと浴場に聞こえていた。 「世界征服なんてどうっすか?」  沈黙を破って、僕がふざけた提案をする。  すると、 「はあ?ピッコロ大魔王か」  先輩はニヤリと笑うと、すかさず僕に突っ込んだ。 「だけど、先輩。独りってことは、その気になれば、世界中どこにでも行けちゃうってことですよ」  ある意味、自由を手にした先輩が僕は少し羨ましかった。 「ば〜か」  だけど、先輩はそんな僕の本気とも冗談とも受け取れる言葉を軽く受け流すと、 「公務員試験!氷河期採用枠!」  と偉く現実的で真っ当な答えを返してきた。  はあ。まあ。そうね。そうだね。そうですね、と思いながらも、僕は心の中で、  海賊王はどこいった?  と静かに突っ込んだ。 おしまい
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