ウサギとカメが、最高の親友になる話。

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 地響きが迫ってくる。後ろの道が土砂に飲みこまれたことを知る。やがて、森の木々を抜け、目の前が真っ白に開けた。 「はあ、はあ、はあ……!」  頂上だ。  ニンゲンがかつて作ったという、灰色の朽ち果てた社が見える。僕はウサギさんを地面に下ろすと、その場にぺったんこになって息を吐いた。 「なんだよ……」  ウサギさんは茫然として言った。 「お前、こんなに速く走れるし、力持ちじゃねーか」 「う、うん……僕も、びっくりしてる」  えへへへ、と僕はその場でひっくり返ってみせた。 「なんだろうね。大好きな友達が死んじゃうかもしれないって思ったら、いつもよりずっと力が出たんだ。ありがとう、ウサギさん。僕、自分に自信が出たよ」 「……俺こそ、本当にありがとう。それから、ごめんな」  彼はしょんぼりと耳を下げて言った。 「お節介なのはわかってても、俺、お前が気になってしょうがなかったんだ。このままじゃいつかニンゲンとか、怖い猛獣にやられちまうんじゃないかってよ。しかも、頑張ってもどうしようもないなんて諦めちまっててよ。だから……お前に自信つけてもらおうとか、余計なことした。お前は一生懸命になれないやつなんじゃないかってどっかで思ってたんだ。それは、とんだ勘違いだったぜ」  本当にすまん、と彼は頭を下げる。 「お前は、すげえ頑張り屋だ。俺なんかを友達と呼んでくれる、優しい奴だ。俺こそ、今まで厳しくしてすまなかったな」 「ううん。ウサギさんが、僕のことを誰より大事に思ってくれてたの、わかってたよ。だから僕、ウサギさんのことが大好きなんだ」  ゆっくりと、空がオレンジ色に染まっていく。綺麗な夕焼けだ。明日もきっと、いい天気だろう。  今日はここで、夜まで二人語り明かすのも悪くない。 「ウサギさん。僕と、親友になってくれる?友達より、親友になりたい。駄目かな」  僕が小さな手を伸ばすと、ウサギさんはふさふさのほっぺを真っ赤に染めて、僕の手を握ったのだった。 「こっぱずかしーこと言うなっての。……おう、俺らは、ずーっと親友だ」  絵本とは違う結末。  ウサギとカメの競争に、敗者はいない。  そういう物語もまた、あっていいはずなのだから。
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