ウサギとカメが、最高の親友になる話。

2/5
前へ
/5ページ
次へ
 ***  ウサギさんはいつも口癖のように、僕にもっとせかせか動け、ノロマじゃ駄目だ、という。  なんでも、カメでももっと早く動ける奴を見たことがあるらしい。  何故ウサギさんがそんなことを言うのかは知っている。ご飯を他の生き物にすぐ奪われてしまうからだけじゃない。いざ外敵に襲われた時、素早く動けないと逃げることができないからだ。最近ではこの森でも、“ニンゲン”という恐ろしい存在がやってきて連れていかれてしまう動物が多いという。カメの甲羅でさえ割る道具を持っているらしい。なんとも怖いことだ。  とはいえ、僕はカメの中でものんびり屋な方である。早く動けと言われても、なかなかそういうことはできない。ウサギさんは僕に対して“ノロマでなくなるための特訓だ!”といっていろいろ連れ出してくれるが、残念ながらあまり効果はないのだった。 「お前、もっと危機感持てよな!」  ウサギさんはその日も、ぷりぷりと怒って言った。 「お前は頑張れば出来る奴なんだ。本当はもっと早く走れるし、体力もあるって俺は知ってるぞ。なんでそれを活用しねえんだよ」 「いいんだよ、僕はこのままでー。どうせ、頑張っても大したスピードなんか出ないしさー」 「良くない!この森だって、いつまで安全じゃないんだ」  ああ言えばこう言う僕に痺れを切らしたのだろう。彼はついに、とんでもないことを言い出した。 「頑張っても大したことないだあ?ふん、そんな奴は、いつまでたっても俺様の特訓を卒業させてやるわけにはいかねえな。宿題を出してやる」  びし、と彼が指さしたのは、僕達が住む南の森、その前にそびえたつ北の山だった。 「あの山のてっぺんに、大昔にニンゲンが作った社がある。そこがゴールだ。俺と競争して、俺より先に頂上に到達してみろ!」 「え、ええええ!?そんなの無茶だよ!」 「おお、一応ハンデはやる。お前はまっすぐの道を行け。俺は遠回りの道を行く。それでもお前が勝てたらお前の勝ちってことにして、宿題クリアにしてやるよ。いいか、競争だぜ。お前が勝ったらご褒美をやる。でも俺が勝ったら……怖い罰を与える!いいな?」 「えええええええええええええええええ!?」  なんでそんないきなり!と僕はひっくり返りそうになった。どうやら、僕が言った言葉のどれかが彼の地雷を踏んでしまったらしい。  ウサギさんはんべ!と舌を出すと、笑いながら言った。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加