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「悔しかったら俺に勝ってみろ、ばーかばーか!ハンデやっても俺に勝てないようじゃ、お前は一生ノロマなカメのまんまだぜ!」
そして、ぴょんぴょんぴょん、と道を東側に逸れていった。ハンデをやるというのは本当らしい。けれど、僕は彼が多少遠回りした程度ではとても勝てる自信がなかった。
「はあ、どうしよう……」
とはいえ、ウサギさんを怒らせるようなことを言ってしまったのは僕だ。付き合うしかないか、と僕はのそのそと短い手足を動かして山を登り始めたのだった。
あっというまに、ウサギさんの足音は聞こえなくなってしまっている。僕が坂道をわっせわっせと登っていると、木の上からリスさんが声をかけてきた。
「ねえカメさん、何してるの?」
「ああ、こんにちはリスさん。今ね、僕、ウサギさんと競争してるの。ウサギさんより先に頂上に着かないといけないんだ」
「はあ!?」
リスさんが目を三角にして言った。
「そんな勝負、おやめなさいよ!貴方に勝ち目なんかあるわけないじゃない。大体、ウサギさんみたいなイジワルな人にどうして付き合うの?貴方は貴方でいいじゃない」
彼女が言うこともわかる。僕は僕でいいのに、と思ったことは何度でもあるから。それに、僕とウサギさんのやり取りを見ていて、僕がウサギさんに虐められていると勘違いする人がいるのもわからないことではない。
でも。
「イジワルな人じゃないよ、ウサギさんは」
僕はゆっくりと歩を進めながら言った。
「ウサギさんがそういう競争を言い出したのは、絶対理由があるんだ。僕、きっとウサギさんを傷つけてしまった。だから、ちゃんと謝らないといけないし……ウサギさんのためにも、きっとこの競争に勝たないといけないんだ。ありがとうね、リスさん。気持ちは嬉しいけど、僕は行くよ」
その後も、僕は様々な森の動物たちとすれ違った。
ネズミさん、イタチさん、モグラさん、ヒツジさん、タヌきさん。この森には、本当に多種多様な生き物が住んでいる。彼等の殆どが、口々に僕に“そんな競争は意味がない、やめた方がいい”という。これはウサギさんが、マウントを取るためにやっていることで、結局カメさんが負けて傷つくだけではなかと。
でも僕は、彼等の心配の声を全部振り切って、頂上を目指し続けた。
なんとなく気づき始めていたからだ。ウサギさんが、この競争を言い出した理由に。そして。
「……もう、ウサギさんってば」
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