『青春か!』あいうえおSS「け」

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「結果はついてくるなんていうけどさあ」  昼休みの屋上で高山咲希が眩しい青空を見上げて目を細めた。 「あれって結局は成功者のみに許されたコメントだよね。だってさ、やって結果が出たから、やったらできるっていえるんだよね」  高山は制服が汚れるのも構わず、ゴロンと屋上に寝転がった。 「暑いね」 「そりゃ……夏だし」  俺は焼きそばパンを頬張りながら答える。 「黒瀬は今日も焼きそばパン」 「いいだろ。購買の焼きそばパン、好きなんだよ」 「うん、美味しいよね。なんか私も食べたくなってきた。買ってこようかな」  高山はむくりと起き上がった。唐突に話題が変わるのは高山の得意技。 「この時間だと売り切れ」 「あー食べられないと思うと余計に食べたくなる!」  高山はイヤイヤ期の子供みたいに手足をバタつかせる。いつもはクールな癖にこういう時は途端に子供っぽくなる。 「仕方ないな。俺のもう一個をあげるよ」  俺はカバンからおやつに食べようと思っていた焼きそばパンを出した。 「え。黒瀬、2個買ってたの?」  高山が目を輝かせる。 「ん」 「サンキュ。じゃ、黒瀬には私渾身の出汁巻玉子とタコさんウインナーを進呈する」  そういって三段重から玉子を摘んで俺の口元に差し出した。食べろということだ。三段重といってもお弁当用の小さいやつ。一の重はご飯。今日は赤飯。なんで赤飯と思うが、食べたい時にいつ作ってもいいと言っている。割と頻繁に持ってくる。二の重はおかず。野菜ものは季節によって違う。今日はオクラの肉巻きとほうれん草のおひたし。小さいハンバーグとタコさんウインナーと出汁巻玉子が定番。出汁巻玉子は究極を目指しているとかで料理人の動画サイトを見て研究している。上達には客観的な意見が必要とかいって毎回試食をさせられる。美味しいからいいけど。高山は高校に上がって割とすぐ自分でお弁当を作り始めたが、その時からずっと食べているので確実に腕が上がっているのがわかる。最初から美味しかったけど。 「今日は塩1、醤油1、出汁1・5の配合なんだがどうだろう?」  高山は焼きそばパンを頬張りながら聞いてきた。 「うん。美味いよ」 「どう美味しい? 昨日は塩1、醤油1・5、出汁1の味醂少々だったんだけど」 「昨日のも美味かったよ」  高山の形のいい眉が歪んだ。……どうも俺は何か間違ったらしい。美味い以外の正解があったら教えて欲しい。  小さい重箱といっても女子には少々多いようで、結局は半分を俺が食べることになる。ちなみに三の重はデザートとサラダだ。今日はトマトと胡瓜のサラダと、サクランボが入っていた。 「ん……」  高山が三の重を俺に勧めた。 「サンキュ」  俺はツヤツヤに輝くサクランボを摘んで口に放り投げた。繊細な甘酸っぱさが口に広がる。何気に今年初サクランボだ。焼きそばパンを食べ終えた高山もサクランボを摘んだ。サクランボの紅色と、高山の唇の赤さにドギマギして目を逸らす。 「さっきの話だけどさ」 「え、なに?」 「結果はついてくるって話」 「ああ」 「あれはさ、優しくない言葉だよね。やらないから成功しないっていうさ。やっても成功が約束はされていないけど。でもやるけど」 「でも高山はいえる方じゃん。成功してるし」 「何? 私、何も成功してないけど」  高山とはかれこれ10年のつきあいだ。俺は小学校に上がった頃にこの街に引っ越してきたのだが、隣に住んでいたのが高山だった。その頃から高山はこの調子で。綺麗で、頭が良くて。先生からもクラスメイトからも信頼厚く。クラスの男子のほとんどが高山に初恋した。高校でも、綺麗な子がいるとすぐに男子がざわついたけれども、マイペースで突拍子もないことをやったりするし、俺とつるんでいるせいもあってか、結局誰も告白できずに現在に至る。 「出汁巻玉子とかさ。頭いいし。中間テストでも十番以内だったじゃんか」 「テストお? あんなの。社会に出る準備過程の評価じゃん。数学のテストでいい点取っても、買い物の足し算や割引率くらいしか使わないし。そんなの成功なんかじゃないし」  さすが。頭のいいやつはいうことが違う。 「そんなことより、出汁巻き玉子! 美味しい? 上手くなってる?」  席次の話より玉子焼きかよと思ったが、それが高山という女だ。 「うん。上手くなってる。高山の出汁巻玉子、世界一好きかも」  高山がなぜか赤面したドヤ顔で俺を見た。ドヤ顔はわかるけど、なぜ赤面。 「結果は……ついてきてるかもしれない!」  そういうと高山は俺の頬にサクランボの唇を押し当てた。 了
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