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4.負けず嫌いを直す方法
南波はさっぱりとした性格だ。喧嘩をしたとしても、彼は意固地になる方でもなく、悪いと感じれば潔く謝ってくるし、こちらが謝った場合も快く許してくれてたいていはそこでおしまいになる。事実、皿洗いを終えた直後の南波に、言い過ぎたことを謝罪したが、南波は「俺が悪かったから。孝貴さんは気にしないで」と笑ってくれた。
だから、この件はこれで終わりのはずだったのだ。
しかし、その数日後、孝貴は見つけてしまった。南波が仕事用に使っているデスクの上にとある本を。
発見したときの衝撃を胸にしまっておけず、孝貴は夏目に訴える。
「『負けず嫌いを直す方法』って本だったんですよ。まさかそんなに思いつめているなんて思っていなくて。俺、どう言えばいいんでしょうか」
「いや、それ別に良くない? 本人が負けず嫌い過ぎるなあって自分でも思って反省したってだけの話だろ? 直すも直さないも本人の自由だし、好きにさせとけば?」
「でも別に被害を被ってるとかそういうことじゃないんです。直してほしいとも思ってなくて。俺はその」
負けず嫌いな南波も好きだし。
言いかけて孝貴は口を噤む。これはさすがに上司に言うことではない。が、言わなくても夏目には伝わっていたようで、くつくつと笑いつつ彼は弁当箱を閉じた。
「おーおー、のろけが眩しい。御剣のために自分を変えたいってことじゃないの? いじらしいし可愛いじゃないか。そもそもさ、御剣愚痴ってただろ? 深夜二時までゲームに付き合わされるのしんどいとか。そういうの解消するんじゃないの?」
「それは……」
確かに南波とゲームをすると日付が変わっても寝かせてもらえない。負けず嫌いのくせにゲーム下手な南波が、自分が納得いくまで勝負を挑んでくるからだ。楽しいが翌日寝不足になることだってしばしばである。
その意味では良い傾向なのかもしれない。
実際、南波はここ数日で変わった。
彼の変化を思い返しながら、孝貴は弁当箱を片付け始める。放っておくべきなのだろうか。悩みつつスマホを確認すると、スマホには南波から一件メッセージが入っていた。
──お仕事おつかれさま。今日早く上がれそうだからご飯、作っておくね。
いつも通り気遣いにあふれた言葉たちだ。温もりを与えてくれる文字を細めた目でなぞり、孝貴は仕事に戻るべく立ち上がった。
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