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1.はじまりは皿洗い
真剣に話しているのだ。こちらは。
にもかかわらず、職場の上司である夏目聖は先ほどからおかしくてたまらないと言いたげに肩を震わせ、妻が作ってくれたというご自慢の豪華弁当も放置して笑い転げている。
「さすがに笑いすぎなんですけど」
いい加減笑い止まなかったら、夏目にとっての弁当の王様であるところの卵焼きを横から掠めとることも辞さない、と御剣孝貴は怒りに震えながら、自作の弁当の中からカニの形にカットしたウインナーを摘み上げ、乱暴に咀嚼する。
「いや、だって。お前それ、完全にのろけだろ。同棲して一年だっけ。まだまだ恋人とラブラブなんだなあ」
夏目はひいひいと笑いながら目尻に浮かんだ涙を拭っているが、孝貴としては笑い飛ばされていい話ではなかった。
ことの発端は皿洗いだった。
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