最後の一回

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 ひと月後、ジョーンズ医師が来日し、西野くんの目の手術をした。手術は無事成功し、一週間後に西野くんの目は見えるようになった。  面会が許可され、私は彼が入院する病院へと向かった。 「ひとみさん、来てくれてありがとう!」  病室を訪れた私にしっかりと焦点を結んだ目で西野くんは礼を述べた。  完治した彼を目の当たりにして、私は飛び上がるほど嬉しい・・・はずなのに、なぜかそれほど気分が盛り上がらない。  おかしい・・・。どうしてそんなに嬉しくないんだろう? というかどうして私はあんなにこの人に恋していたのだろう?  私が訝っていると、西野くんが意味深な笑み浮かべる。 「ひとみさん、僕の目を治してくれてありがとう」 「私はただジョーンズ先生に頼みに行っただけだから・・・」  気乗りしない声で答えると、西野くんがニヤっと笑う。 「そうだけどさ。ひとみさんが特別な力を使わなければ無理だったでしょ?」 「えっ!?」  私が驚いて西野くんを凝視すると、彼はヘラヘラと笑う。 「僕と同じように、大した取り柄もないのに誰からも好かれている相河ひとみって子がいるって聞いたことがあったんだ。だから、ひょっとしてひとみさんにも特別な力があるんじゃないか?って前から目をつけていたんだよ」 「? それじゃ・・・!?」  西野くんが訳知り顔でうなずく。 「そう。僕にも特別な力があるんだよ。声のね」  声・・・!? じゃあ、あのとき恋に落ちたと思ったのは・・・! だから、今はもうそんなに好きじゃないんだ! 「でも、目が見えない僕がアメリカの医師に会いに行って頼むなんて絶対無理だった。だから、ひとみさんが僕に近づいて来るのを待っていたんだよ」  なんてこと!?  それじゃ、私は最後の力を騙されて使わされて・・・!?  呆然とする私を西野くんが申し訳なさそうな目で見る。 「悪いとは思ってるよ。でも、僕はもうあと一回しか力が使えなかったんだ。だから、手段を選んでいられなかったんだよ」  敗北感と絶望感で私は目の前が真っ黒に塗りつぶされた。 Fin.
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