最後の一回

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 今、私が絶望していると言ったら、家族や友達は不思議がるだろう。それどころか冗談だと思って笑い出すかもしれない。  申し分ない大学の学生で、カフェでのバイトやテニスサークルでもアイドル的な立ち位置だ。誰からも好かれている人を教えてと言われたら、私の友人知人は皆私の名を真っ先に上げるだろう。  誰もが羨むバラ色の人生を私は送っている。  けれども、こんなバラ色の生活が終わるとすれば、誰でも絶望するのではないだろうか?  容姿も学業もスポーツも特段取り柄がない私が人気者なのは、秘密の力があるからだ。  私が相手の瞳を見つめて「好きになれ!」と胸の内で念じると、誰でも私に夢中になってしまう。  ただし、その期間は十日間だけだ。  けれども、相手には私に好意を持っていた記憶が残るし、その十日間で関係が打ち解けるから、力の効力が切れても嫌われることは滅多にない。それにもしトラブルが発生してもまた力を使えばいいだけだ。  でも、私がその力を使えるのもあと一回だけになってしまった。  子供の頃から力を使おうとすると、一瞬目の前に数字がチラついていた。最初は気にも留めていなかったけど、あるとき数字が減っていることに気づいた。小学校二年生のときだ。  9326  ちょっと前まで一万以上あったはずだった。不思議に思って試しにもう一度使った。  9325  私はゾッとした。一回使うごとに一つ数が減っている。つまり、私がこの力を使えるのはあと9325回ということになる。  この不思議な力について私はそれまでに何度か親に質問したことがあった。    一体この力は何なのか? そして、例えば親族なら同じ力を持っている人もいるのか?  けれども子供の戯れ言としか受け取ってもらえず、ただとても特別な力なのだということがわかっただけだった。  その後は誰にも力のことを言わないことに決めた。どんな噂が立つかわからない。SNSで晒されでもしたら大変だ。  私はなるべく力を使わないように生活しようとした。けれども何かトラブルがあるとどうしても力に頼ってしまった。  例えばクラスの女子から仲間外れにされそうになったときや、受験勉強がわからないとき成績の良い生徒に教えてもらう必要があったときなど。  いやそれだけじゃない。  ちょっとでも嫌われそうになると反射的に力を使ってしまった。  その途端相手が機嫌を取り始めるのを見るのが痛快だったからだ。  一種の依存症だとわかっているけど、どうしてもやめられない。
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