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「……連中を中に送り込んでしばらく経つが、だいぶ手間取っているようだな」
周囲で手下と思しき者たちによる雑談の中、ぼそりと呟く声が聞こえてきた。おそらくは派手な杖を持っていたであろう、初老の男であろうか……
魔甲剣士の部下の一人だった筈であるが、先ほどまで見せていた恭しい態度は既に失せているようだ。
「今日一日出てこなかったら、また別の冒険者を唆して挑ませるのか?
あるいは、連中が障害の半分以上を取り除いていると信じて俺たち自身で挑むか?……」
この声は魔甲剣士ロウガと思われる。
こちらは先の戦いの印象と何ら変わることなき態度のままだ。
「それは極力、避けたいのぉ……
騙した冒険者が生きていて敵対する羽目になったら、厄介じゃ……
当初の予定通り、このまま茶番を続けて剣をだまし取るのが一番じゃが、戦うにしても、連中が疲弊しているのを確認してからの方がよい……」
「数は俺たちの方が上の筈だが?」
「冒険者の実力は甘く見てはいかん……
そもそも、楽に勝てるくらいならこんな手の込んだ策など弄せんわぃ」
「どちらにせよ、俺は剣聖ロウガの剣さえ手に入ればそれでいいのだがな……
それがどんな聖剣であれ魔剣であれ、剣聖と称するものが持つのであれば、きっと誰も見たことがない、凄い剣には違いがないだろうからな……」
魔甲剣士と老人魔導士の会話が続く中……
「俺の[働き]を忘れてもらっては困るのだが……」
「偉そうにするな、スータン……
賭博に大負けしていたところを俺が拾ってやったんだ。
お前もそうだ、イトゥワルー……
その〈幻術の錫〉を盗み出して指名手配になっているところを匿ってやっているんだ。その恩に応えてもらうぞ……」
「ふん! それを言ったら私が加勢していなかったら、お前らとて今頃は牢屋の中だったのだ……お互い様じゃ」
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