3,再会 ワンスモア

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3,再会 ワンスモア

「元気そうね、加奈!」 「わあ、千夏ちゃん久しぶり。弓枝も!」 加奈が退院して数日後、弓枝と、関西から来た千夏が加奈の家にやってきた。 2人は家の中に招かれ、お茶を飲んだ。時間は2時少し前で、3人とも昼食を済ませていた。 「退院したといっても、通院して放射線治療とかするし、癌とは長いつきあいになりそう」 加奈は努めて明るく言った。 「今、腕がリンパ浮腫でむくんでるの」 「それ聞いたことある。ストレッチとかした方がいいんじゃない?」 加奈の艶のある栗色の髪はウイッグなのだろうと、2人は見当をつけた。 ともあれ、久々に再会した3人は、電源を入れた電気毛布のように当時が温もりとなって甦るのを感じた。 この日はこれから弓枝がサプライズで、ある場所へ2人を連れて行く予定だった。 「ここからだと、ほんの10分程度よ」 そして3人が乗った車は、S市の中心部にあるアーケード商店街から少し脇にそれた所にある、レトロな感じの建物の前で止まった。 車から降りた加奈と千夏は、「喫茶ティースファクション」という看板を見て、「サティスファクション!」と声をそろえた。 「友人の旦那さんが経営しているの」 と説明して弓枝がドアを開けると、そこには60年代にタイムスリップしたような空間が広がっていた。 ギブソンやフェンダーといったヴィンテージギターが数本並べられ、LP、シングルレコードがレコード店さながら陳列されていた。 壁にはビートルズやローリングストーンズなどのおなじみのレコードジャケットが飾られており、そこにピューマズやセデューサーズのジャケットを見つけた加奈と千夏が、歓声を上げた。 店内に流れているのは、60年代の洋楽プラスGSの曲。 「ようこそ遠藤さん、それにお友達」 カウンターの中から声をかけたのは、口ひげを生やしていかにも喫茶店のマスターといった風貌の中年の男性だった。
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