この音楽(せかい)に乾杯

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世界に「音楽」があった。 それが声を持たない人間たちの表現だった。 人間は色々な楽器を使って、自分を他人を励まし続けてきた。 「重なる音楽」は美しかった。 世界が突然、暗転した夜、その「音楽」がやんだ。 長い沈黙の後、ひとりの青年が顔を上げて、メロディを奏でた。 「俺たちは仲間だ」と。 それを傍らで聴いていた少女は応えた。 「あなたの勇気が光」だと。 暗く閉ざされた世界は変わらなくても、それを感じた人達の心に光は紡がれた。 「私たちはしあわせだ」 「オレたちには「音楽」がある!」 「この世界は暗くなんかない」 「ぼくたちが光だ!」 重なっていくハーモニーは綺麗だった。 永遠に響くようだったそれも、傍らの少女が指を痛めて弾けなくなると、次々にやんでいった。 やがてすべてが止まり、静かになると、そこは暗くて悲しくて、みんな泣いてしまった。 そんな中、初めにメロディを奏でた青年が、楽器を掲げ上げた。 「順番にひとつ奏でて曲にしよう」 ひとりが奏でて、次にバトンして、別のひとりが奏でて、次にバトンして。 世界中へ思いが広がっていく。 音色が世界を一周した時、人々は喜びに涙しながら楽器をコツンと重ね合わせ、拍手した。 「この音楽(せかい)に乾杯!」
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