Flashbacked

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 一般的に、殺人事件を解決するのは警視庁や道府県警の捜査一課の刑事さんの仕事であって、探偵の仕事ではない。創作物で事件を解決するのは、職業探偵と呼ばれる人たちである。  極稀に、物語に登場する職業探偵ではなく憑き物落としが事件を解決することがあるけれども、それは作者の文才がすごいからであって、僕にそんな文才がある訳ではない。  しかし、僕は今、成り行きで探偵役を任せられている。目の前にある遺体を作り出した人間を、暴くという役割である。僕は職業探偵ではなく、ただのフリーランスのWebデザイナーだ。よくある推理小説だと、被害者がダイイングメッセージと呼ばれるモノを遺して命を絶つ。  しかし、普通に考えてそんなモノを被害者が残す余裕があるのだろうか。僕にはそれが分からない。辛うじて、犯人の証拠と呼べるモノといえば、壊された被害者のスマホに付いていた指紋だろうか。それだけでも、被疑者の割り出しは行えるが、仮に冤罪だとしたら大変なことになってしまう。罪を擦り付けるために犯人が仕組んだ罠という可能性も考えられるのだ。  そんな中でも、僕は犯人を確信した。けれども、これで合っているのだろうか? そんな事を考えても仕方がないので、僕は事件の犯人に向かってお決まりの言葉を発することにした。 「あなたが、この事件の犯人ですね」 「…………」  当然、犯人は黙秘権を貫いている。当然だろう、自分が殺人事件の犯人であることを明かすわけには行かないのだから。その人が犯人であることの証拠は十分揃っているし、今すぐにでも自白させることはできる。しかし、黙秘権を貫いている限りはどうにもならないのだ。  やがて、刑事さんが犯人に話しかけた。 「――もう、こんな事やめたらどうですか? 誰も幸せにならないでしょう」  すると、犯人はあっさり口を割った。 「……そうです。私がやりました。刑事さん、私の腕に手錠をかけて下さい」 矢張り、最終的に美味しいところを持っていくのは刑事さんなのかもしれない。  そもそも、どうして僕が探偵役として担ぎ出される事になったかと言えば、僕が京極夏彦の大ファンで、なおかつ殺人の手口が京極夏彦の小説を真似ていたからである。ネタバレになってしまうので具体的なタイトルは明かせないが、「連続目潰し殺人事件のやつ」と言えば通じるだろうか。  そういう訳で、僕はとんでもないコピーキャットと対決することになってしまった。それは、最初の連続殺人事件が発生した日、即ち1ヶ月前まで遡る事になる。それは、丁度桜の咲く頃だったかもしれない。その時僕が何をしていたのかというと、普通に芦屋で暮らしていて、普通にクライアントからの案件を受け持ちながら働いていた。  ――ただし、芦屋浜で件の遺体が見つかるまでは。
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