謀反

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謀反

 アリの世界は完全なメス社会。オスは交尾するためだけに生き、ほとんどが交尾後に死ぬ。  そもそもオスは無精卵から生まれ、有精卵から生まれたメスとは違う。  だが、交尾しか役割がないオスのために、多くのメスが食料を届ける。  とても悔しいし、届けたいなんて思っていないが、オスがいるからコロニーは繁栄したのも事実。  ほぼすべてのメスたちがせっせと働くのは、女王が生む弟妹のためだ。働きアリとは、みんな姉妹。そして若い世代からすれば、すべての働きアリはお姉さんなのだ。  サヤ姫も、執事アリ1225にとっては妹である。次代の女王となるべく特別なご馳走で育てられた羽アリ。このコロニーに住む働きアリは、サヤ姫と未来の弟妹のために、できるだけ素敵な献上品を届けたいと思って頑張ってきた。 「でも1225、母上を暗殺しても、副女王がいるわ。コロニーは簡単に終わらない。謀反なんて成功しないわ」  執事アリ1225はかぶりを振る。 「姫様は、温室育ちですからね。真の敵をご存じない」 「鳥ではなくて?」 「違います。平和に見えるコロニーは、常に戦争してるようなもの。真の敵は他のコロニーのアリなのです。兵隊たちは必死に戦い、コロニーを守っています。ですが、現女王暗殺後、副女王が戴冠となれば、働きアリからの献上品が多く求められるでしょう。働きアリたちは新女王に献上品を届けるべくコロニーの出入りが激しくなる。そこに他のコロニーの暗殺者を招き入れれば、これを防ぐは至難。我々は新女王の命と多くの食料を差し出して、助命嘆願も視野に入れています」  サヤ姫はさらに驚く。 「そんなことをしたら、みんな路頭に迷うわ」  だが執事アリ1225は平然として笑う。 「本来、我々はみんな出産できるのですよ。女王の放つ匂いによって、強制的に不妊にされているだけです。女王がすべていなくなれば、我々は母になれます。そしていくつものコロニーを形成した後、サヤ姫様の臣下となる。貴女はトップ女王として巨大な領土を得る。我々は謀反成功後、服従の血判状を貴女に届けたい」  サヤ姫は想像した。それなら一大帝国を築き上げられる。その女王となる自分。素晴らしいとしか言えない。 「1225、謀反を成功させましょう! そのために、私は結婚飛行の準備をしなくちゃね」  執事アリ1225は頷く。 「ぜひ、良いコロニーをお作りくださいませ。くれぐれも、鳥に捕食されませんように」  
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