ワンマン!

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「これさ、ガチやばすぎる。警察には通報しないけどね」 24時間営業の店でドリンクだけで粘って、三人が会話している。 まあ午前の二時過ぎなのて客が少なくてガラガラだし、近くの席で オジサンが、四人がけテーブルの椅子の上に横になって寝てるし。 むしろこの空間は『秘密の話し』を、するには適していた。 「これ、テープとか糊とかで塞がれてないし。 しかも......封筒には消印とか切手とか付いてない。 自宅を完全に特定されていて、直接、個人ポストに入れた。 というわけだよね?ガチやば、とかのレベルじゃないよ!」 ミュージシャン仲間のセリトさんが声を荒げてしまって、おもわず 周辺を気にした。 オジサンは寝てるし、他に客はいないと改めて確認できた。 ともあれキミキヨさんは音出し可能の物件に住んでいる。 楽器の練習ができるように配慮されてるマンションは 特に音楽学校がある街とかに、多かったりもする。 だから手紙の相手は、キミキヨさんの部屋番号まで 知っている......という恐ろしさなのだ。 「なんかさ、居座ってるのもアレだしさ。俺、注文してもいい?」 真乃纏 (まの まとい) が、メニュー表に手を伸ばした。 「お、落ち着いてるね。俺、いまブチギレ寸前で店ごと壊しそう!」 セリトさんは見た目は華奢だけど、怒りを抱えやすいタイプだ。 だけど普段は温厚だし、しかも容姿が中性的な美形青年なので 女性ファンが多い。 ちなみにセリトさんはギターの弾き語り。 キミキヨさんはピアノの弾き語りをやっている。 「いやいや、こういうときは腹ごしらえも大事でしょ? めっさ脳みそ使うよ?そのあとは行動しまくりだよ?」 真乃くんはミュージシャンではなく、ファンの側の二十歳の大学生。 今回は偶然に、高円寺でキミキヨさんと出くわして、そして 今からセリトさんに会うとおしえてもらえた。 それで『真乃くんも来なよ~』と、軽いノリで言ってきて 深夜の高円寺の店に集まった。 しかしながら......軽く話せる話題ではなかったのだ。
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