ワンマン!

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終電がもうない深夜。 キミキヨさんは高円寺が微妙に近くて遠いので、自転車で自宅に帰る。 「自転車とはいえ、深夜だし、気を付けろよ。 あと、なんかあったら、すぐにラインしろよ」 セリトさんが本気で心配している。 「24時間、誰かが守ってくれるわけじゃないから。 どうにもならないよ。もちろん防犯はキッチリやる。 みんな、こんな時間まで付き合ってくれて、ありがとう! なんだか心の重荷が少し取れた!」 そう言って自転車で去って行った。 セリトさんは野方(のがた)なので、徒歩では少し遠いけど 歩くには遠すぎるわけではない。 「歩いて頭を冷やすわ、じっさいに自分のことも色々あるし」 まだ少し蒸し暑い夜だけど、真夏のピーク時よりはマシになってる。 セリトさんは歩きながら手を振って去って行った。 そうして真乃纏と二人......。 正確には人間ひとりと幽霊が一体? みたいな? 「あのさ、音楽の趣味、あんたと共通してるよね? 俺の行くライヴにさ、やたら居るじゃん?」 真乃くんにはもう何も隠せないと把握して、僕はフワフワと 浮かんでいた身体を地に着けて、彼と歩き始めた。 真乃くんは『ライヴがたくさん観たいから』という理由で 実家の千葉から、東京の中野区内の大学に進学した。 そして高円寺で独り暮らしをしている。 高円寺のある杉並区と中野区は近いから。 と、同時に、高円寺ではライヴバーもライヴハウスも多いからだ。 プロのミュージシャンも好きだけど、アマチュアのほうが 観に行きやすいし、好みの音楽が多い。 そのタイプだと、高円寺や下北沢にあるような、小規模な場所に 時間と交通費の負担を減らせて行ける。 そこも重要なのだ。 とにかく彼はひたすらに聴く側が楽しくて。 それを更に充実させている。 とてつもなくマイペースであり、気楽に過ごしている。 まあ、そういう呑気な感じ? そこは僕と似てる気もする。 だから彼と話せる喜びと、驚きと、そして......。 キミキヨさんのことが心配な気持ちとで、脳内が混乱してる。 いや、幽霊に脳みそとかあるのか?とかおもうと更に混乱した。
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