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"天使の微笑み"だと産まれたときから、物心つく前から言われ続け、十数年。
中学の頃に思いしらされた、教訓。
"笑ったら、襲われる!!!"
小学生の頃はまだよかった。女子が「かわいいっ」と騒いだり、ほわほわして見られているだけで済んでいた。男子には少々からかわれたりしたが、笑わなければ普通の男子だったから、普通に友達もいた。
中学にあがって、いわゆる思春期突入した奴が目立ってきて、小学校でおバカをやっていたような奴らも体つきが変わりはじめたり、周囲の視線や異性を気にしたり。つまりは恋愛というものに揺さぶられるようになっていった。
そこで困ったのは男子は女子だけを見ていればいいものを、とある男子の一言を皮切りに、ノーマル男子である俺に矢印を向ける奴らが現れたことだった。
「羽賀の笑顔ならイけそう。ヤれそじゃね?」
じゃね? じゃねぇんだよ!
それは好意の矢印なんかじゃなく、ただの性欲の捌け口。俺を利用するな。
同級生には同じ小学校の奴らがいたから、事情というか俺の笑顔に耐性のある奴らは笑い飛ばしていた。いさめてくれた奴もいる。しかし、その噂がどんなルートを辿ったのか上級生に届くと、イけそうヤれそうでは済まなくなっていった。
友達と部活の勧誘をやんわり断っていた時に、二年生の男に俺だけ後から呼び出された。それから部室に連れ込まれ、壁に追い込まれ。
その後は二年生に留まらず、三年生も。別のクラスの一年生も俺に手を伸ばしてきた。
放課後一人で帰ろうものなら体育館裏に引っ張り込まれ。
移動教室の途中に空き教室に連れ込まれ。
登校途中、下校途中に路地裏に担ぎ込まれ。
もう、笑ってなくても迫られた。
簡単に連れ込まれる俺も俺なんだが、こればかりはどうしようもない。身長は160センチに届かず男子にしては小柄。筋肉も付きにくいようで細身で軽い。それでも顔がもっと男らしければ、男らしければ……っ!!
……男らしかったら"天使の微笑み"なんて言われねぇんだよ。
つるさらの黒髪に色白の肌。目立つ瞳も黒く、くりっとしている。小さな鼻に小さな唇。女の子の服を着ればさぞかし似合うだろう。
不・本・意・だ・け・ど!
しかも男子だけに留まらなかった。
同級生には男子と同じく女子も、耐性があったり理解してくれる子がいた。でもやっぱり俺を知らない上級生は違った。
男子と何が違うって、群れで囲んでくる。最低でも二人で襲ってくる。男一人にも太刀打ちできない俺だが、女子ならば……って二人以上で来られたら腕力じゃ敵わない。
中学生ってこんな乱れてんの? 隠れてやってればいいって訳じゃなくね? 女の子の被害は全く聞かないけど。え、つまり俺が男だから? かわいい顔してるけど男だから襲ってもOKっていう流れなの?
ちなみ女子の上級生は、俺の顔にメイクを施したり、ちょっと触って可愛がる程度のパターンが多くて、正直助かった。
男子はガチで襲いに来たけど、腕力も脚力も敵わないから唇は何度か奪われたけど、服をひん剥かれたり、あちこち触られたりしたけど、ベルトとズボンは守った。力じゃ敵わないけど、キック力は回数を重ねる度に上昇していき、精度もあがり、確実に相手の急所を蹴り飛ばす事ができるようになった。
そうやって逃げているうちに進級し、やっと気付いた。悟った。学んだ。
……笑ったら、襲われる!!!
中学二年の夏が終わる頃、やっと悟った。担任の先生に進学する志望校を伝えると、俺の苦労を分かってくれたのか応援してくれた。俺と同じか俺より力がなさそうなおじいちゃん先生。若い教師は言わずもがな、ダメだった。俺の"天使の微笑み"は誰でも誘惑するらしい。襲われた際は容赦なく蹴り飛ばさせてもらったし、校長に報告しておいた。もう、フェロモンか、フェロモンが出てんのか?
という訳で"天使の微笑み"封印。
それから中学三年生の俺は、顔が見えないように前髪を伸ばし、常にマスクをして一年間過ごした。それでも襲ってくる奴は、遠慮なく急所を蹴り飛ばさせてもらった。
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