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高校一年の春。俺、羽賀 瑞希(はが みずき)は親元を離れ、地元からも離れた所にある高校へ通うため、手狭ではあるがアパート借り、一人暮らしを始めた。 俺の志望した高校は、一般的な高校とは少し違う。まずは私服登校である。これは、ジェンダーフリーに対応した校風であるからだそうだ。女子はスカート、男子はズボン……と決めつけず、服装は自由に囚われず、己の学びたい分野の勉学に励めるように。ただし、あまりに奇抜だったり露出があるものなどは、指導担当の先生にそのファッションの魅力と、社会的な必要性を説明し、納得させなくてはならない。 自由だからといって、真冬に海パンで登校する愚か者はいないと思うが、自分の行動が周囲に与える影響、自分に返ってくる批評、学校とはいえ小さな社会であるこの学舎において、その服装はどれ程の重要性があるのか。卒業して一般社会に出たときに、同じことをして許されるか。恥ずかしくないか。 ……とまぁ服装自由っていっても、無難な物を選んで、協調性も視野にいれながら、個性を大事に過ごしてねってことである。 ・ジェンダーフリーとは、社会的性別にとらわれず、誰もが平等かつ自由に行動できること。 ・ジェンダーレスとは、ジェンダーギャップのない、またはジェンダーギャップをなくそうとする考え方を指す。男女の境界を無くす、区別しない、という意味合いが強い言葉である。 ……っていうのは、ちょっとスマホで調べたら出てきた訳なんだけど。男女を区別しない、とまで言ってしまうのは俺は……いきすぎな気もする。掘り下げると頭がこんがらがりそうだから上部だけで考察すると、男だからしっかりしろとか、男は泣くもんじゃないとかっていう昭和な考え方は、骨董品くらいに古いわけで、時代にそぐわない。女は結婚して子どもを産んで家庭を守ってとか、女のくせに男よりも出世しようなんて、っていう今の時代にこれを言うやつがいたら、たぶん360度包囲網で白い目で見られるだろう。 男女の境を無くすのではなく、男だって可愛らしいぬいぐるみを好きで、毎晩抱いていたっていいし、女の出世や政治への参入はどんどん踏み込んで行けばいい。そんな中で、どうしても越えられない壁があった時に、男は女を助け、女も男を頼ればいい。逆に男が女に頭を下げることは、けして屈辱なんかじゃなく、相手に対して平等な姿勢である。そういうことを素直にできる社会になれば、自然と性別で区別する線引きは薄くなっていくんじゃないかと、思う。 俺がこの高校を選んで受験したのは、俺が性別について悩んだからではなく、男だからこうする、女だからこうするっていう型から外れた所に行きたかったから。それから、俺のことを誰も知らない所に逃げたかったからだ。 逃げるは恥だがなんとやら。高校卒業の資格さえ貰えればいいんだ。地元で普通に進学していたら卒業どころか俺の身が、貞操が危ない。 さて。入学式ではそれなりの格好をしなければならず、社会的に言えば、スーツの一着くらい持っておきなさいということらしい。制服っぽい服を用意する。中学の制服もありらしく、入学式の日の生徒の姿は立派なものだった。 中学では、みんな同じデザインの制服で男子は学ランにスラックス、女子はセーラー服でスカートと右を見ても左を見ても同じだった世界だが、この日、この講堂に集まった新入生はみんなバラバラだった。中学のときの制服の奴もいれば、高校生らしいブレザー姿の奴。スーツを揃えた奴もいた。女子もセーラー服だったり、ブレザーにチェックのスカート。ネクタイやリボンを結んでいたり、フリルがチラチラ見えたり。華やかでとても可愛らしかった。どこかの会社の事務員みたいな制服やリクルートスーツを着ているおとなしそうな子もいた。 俺は無難にブレザーにスラックス。ちょっと肌寒かったのでパーカーを着こんで。寒がりなんで。そしてマスク。もうマスクがないと外を歩けない。俺のことを誰も知らないといっても、うっかり……そう、うっかり誰かの前で笑ってしまったら。 ……襲われる!!! ぞわっとしたものが背中を這ったが、気力で入学式を終えた。 校長先生の挨拶が地味に面白くて、周りから笑い声があがる中、俺は必死にフードをかぶって堪えた。どんな挨拶だったかは、想像にお任せする。
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