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入学式のあと、案内された教室に入った。俺は一年一組。この高校の男女比はだいたい半々らしい。今日は制服"風"だからパッと見の性別は分かりやすい。少し男子が多いようにも見える。事前に配布された名簿を見ても、最近の名前って性別がわかりにくいよな。ある意味男女に囚われず、この学校らしくていいけど。分かりやすい名前もあるけど。 一番後ろの席に座っていると、生徒の眼差しの向きというか注目されている生徒の存在が明らかになる。ちなみに席順は定まっておらず、どこに座ってもOK。出席番号順とか、あいうえお順とか、当然男女別とかがない。いいじゃん。でも机を動かすのはNG。 このクラスで注目されているのは、教室の真ん中辺りに座ったスラッとした生徒のようだ。特に女子の視線がすごい。渦巻いてる。それにつられて男子も見ているようで、窓際一番後ろをゲットした俺は、その眼差し台風の影響を受けずに観察する。 注目されている生徒は、毛先の色を少し抜いた感じの髪の毛、ちょっとくしゃっとしているのは天パかもしれない。後ろからじゃよく見えないがたぶん顔も整ってるんだろう。グレーのジャケットに黒のスラックス、黒い革靴。足長っ。 ざわめく教室の中、一つ一つの言葉は聞き取れない。イケメンそうな彼が注目の的となってくれているしばらくは、このざわつきの中で俺は忍のように過ごすことにしよう。気を引き締めて、笑わないように。 ……笑ったら襲われるからっ!!! フードもかぶろうかなと思った頃、担任らしき男性が入ってきて喋り始めた。五十代くらいだろうか、ベテランそうな先生だ。それを聞き流しつつ、窓の外を見る。一年生の教室は二階。同じ階の反対側の棟に二年生、三階に三年生の教室がある。一階がやたら広い造りのようで、専門教室はほとんど一階にある。 眺めはよく、どの教室からもグラウンドが見下ろせる。まったく土地勘がないから、遠くに山が見えても山だなぁとしか思わないが、地元の奴らからしたら有名な山かもしれない。都会のど真ん中にあるかといわれればまったくそんなことはなく、田舎かと問われるとそこまで見渡す限りの田んぼや野原が広がっているわけでもない。無いわけでもない。 程よく中間で、少しずつ都会からお洒落なお店だったり、人気の専門店が手を広げてきている、そんな感じ。電車の本数は少ないが、替わりにバスが絶え間なく走っている。俺は学校まで徒歩か自転車で移動できる距離にアパートを借りたから、どちらもそう使わないだろう。 「……はい、では一応、自己紹介していきましょうか。端の席の方からどうぞ」 何を話していたか知らないが、ホームルームは進み、新学期定番の自己紹介タイムとなったようだ。名前に加えて趣味や出身校を付随する奴、名前だけで着席する奴もいたがおおまかフレンドリーなクラスメイトのようだ。 教室の真ん中、おそらくイケメンの彼の番が来ると、前の席の奴が振り返り周囲の女子達も両目をかっぽじって見開いていた。こわいこわい。 椅子を引き、いっそ優雅にすら見える仕草で立ち上がった彼は、顔をまっすぐ前に向けたまま「涼路……」と思ったより高めの声で静かに話し始めた。耳心地のいい声だと思った瞬間、クラスメイトの女子達が声を揃えて「「王子~~~っっ!!!!」」と騒ぎ立てたので、自己紹介は一時中断した。 そして入学早々、彼のあだ名は"王子"または"王子様"になった。俺の自己紹介は、時間切れ間近ということで「羽賀 瑞希です。よろしく」で終わった。
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