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入学式も無事に終わったし、両親も満足して帰っていったし、やっとの事で荷物を持って帰ってきた。 二階建てアパートの二階、向かって右端から二番目のドアまで荷物を運ぶ。結構古いアパートだけど廊下や階段は小綺麗にされている。部屋数も一階と二階に四部屋ずつで、空き部屋もある。人が少ないから過ごしやすい。大屋さんもフレンドリーないい人で、家賃も安い。 今は親からの仕送りを頼りに生きているが、来月からはバイトを探して少しでも自由に使えるお金を調達したい。ちなみに学校はバイトOK。社会勉強のためにバイト推奨している。 ちょっと寂れた音がするドアを開け、狭い玄関に入り、荷物を置いて鍵を閉める。とりあえず荷物はそのままにしてカーテンと窓を開けた。四月のまだ冷たさが残る風がこもった部屋の空気をかき回す。1DKでバス、トイレ別付き。一人暮らしならちょうどいいだろ。 最低限揃えた家電。冷蔵庫からストレートティーのペットボトルを取り出して扉を閉める。自炊もしなきゃなぁ。両親からは月に一回仕送りと、食材が送られてくる。ありがたい。引っ越す前に料理も教わり、カレーが作れるようになった辺りで「とにかく電子レンジがあれば、死にはしないでしょ!」と背中を叩かれた。 「……近くにスーパーあったな」 引っ越ししてきた日に他の部屋に挨拶に行ったら、このアパート周辺の地図を書いてくれた。一階の超イケメンのお兄さん。人懐こそうで優しかった。両親が帰った後だったから、優しさが滅茶苦茶しみた。思わず笑顔でお礼を言いそうになって、必死に歯を食い縛ったものだ。 ……笑ったら襲われる!!! こんな、しっかり筋肉質な(まだ三月初めで肌寒かったのに半袖ティーシャツだった)イケメンのお兄さんに迫られたら受け入れちゃいそう、なんて思った自分にも泣けてきそうになりながら、深々と頭を下げた。 着替えてから財布とスマホ、エコバッグを持って部屋を出る。昼を過ぎたからだろうか、アパートの住人とは誰にも会わずにスーパーにたどり着いた。方向音痴の俺にとって地図がめっちゃありがたかった。お兄さんありがとう。 明日も朝から登校で、部活動の勧誘や授業の科目選びがある。部活動はともかく、ここでもこの学校特有なのが、選択科目の多さだ。基本的な学習科目、国語、数学、社会、理科、英語の五教科は必須。音楽、体育、技巧、家庭科等は週にいくつか入る。その他専門知識を学ぶための科目、英語以外の外国語、保育や福祉、機械や情報といった卒業後の進学や就職に向けての科目の選択がある。 選べる科目が自由。ジェンダーフリーな校風でなくてもあるところにはあるだろうが、社会に出れば学校にいる今よりも性差別に厳しい現実はある。その厳しさに歪められることのないように、身につけるスキルはたくさんあったらいい。自分の可能性を自らの手で掴み、広げる。社会に出て自由に羽ばたいて生きていけるように。スローガンその2だな。 スーパーで必要なものを買いそろえて、ホットココアの缶を一本追加。今日の俺のご褒美。歩きながら温かいうちに飲み干し、エコバッグのすみに缶を押し込む。 アパートの古びた門が見えてくると、自然と心の中で「ただいまー」と言っていた。
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