1

5/8
前へ
/8ページ
次へ
次の日、校内で迷子になりながらなんとか教室まで来ると、入学式の時とはなんだか雰囲気が違うように見えた。迷ったおかげで教室にはほとんどのクラスメートがいて、各々グループで固まってお喋りしたり、読書したりと自由に過ごしている。 なんか、男子率上がってない? 教室全体の雰囲気として、服の色もあるだろうが全体的に男っぽい空間。入学式の時はなんちゃって制服だったから、男子も女子も半々かと思ったが、私服となると変わるらしい。かといってむさ苦しいかというと、そうでもない。爽やかですらある。そりゃそうだ、女子だってズボン履くもんな。それに。 教室の真ん中を取り巻く女子の群れ。入り口からではその中心に座る人物の顔はおろか髪の毛の一本も見えないのだが、誰がいるのかは分かる。飛んでくる女子達の声ははしゃいでいて、好きなアイドルを追いかけるようなノリに見える。 ずっと聞こえる"王子様"コール。 まぁ、ここに女子が集まってるから、散らばる男子が逆に目立つのかもしれない。ま、俺には関係ない。変に注目されて、うっかり笑ったりしようものなら……襲われる。 背中をゾッとしたものが撫でるのをそのままにして。さて、席につくかと教室に入ろうとした時、不意に女子達の群れが乱れた。ドーナツ状態だった女子達の一部が、俺の後ろ、廊下から声をかけられて輪を離れ、一口かじったみたいな形になったのだ。すぐに埋まってしまったが、その隙間からまっすぐ俺には"王子様"の顔が見えた。横顔だけど、綺麗な目鼻立ちに細い顎。爽やかに笑ってはいるけど、どこか無理をしているような、微かに顔色が悪そうに見えた。 こんな風に女子に騒がれて喜んでいるナルシストかと思わなくもなかったが、本当にそうだろうか。可愛い女の子大好きで、囲まれているのが心地いいのかと目を背けようとしたが、体調が悪いなら放っておくのもしのびない。 俺はマスクをしっかり装着して、前髪を顔に被せる。それから息を吸った。……名前、なんだっけ、あぁ、思い出した。 「なぁ、涼路。先生が呼んでたぞ?」 ざわついていた教室が、俺の声で一瞬静まり返る。え、あれ? なんかおかしかった? 名前間違えた? 戸惑う俺の顔色はたぶん誰にも見えない。言い様のないストレス攻撃を受けながら、頑張って視線を教室の真ん中に固定していると、やっと目標は椅子から立ち上がった。 「呼ばれてるみたいだから、行ってくる」 王子様は周囲の女子達に微笑みかけ、机から一歩離れた。すると「私もいく」の声がいくつもあがる。それを宥めるようにまた微笑むと、少しだけ間を空けて「行ってくるね」と一言だけ言った。目が合ったらしい女子はくらりと目眩がしたようで、王子様はそれをそっと支え、近くの椅子に座らせる。 その優雅な仕草に俺も含めて見とれてしまった。正気に戻ると王子様は俺の方に歩いてきていた。え、なんでこっち来るの? あ、俺が呼んだからか! 目の前に立った王子様、いや涼路は数センチほど俺より背が高く、スラッと細くて華奢に見えた。足長ぇ。初めて顔面を正面から見たが、綺麗な顔をしている。長めの前髪をセンターで分けて綺麗な眉が見えてる。大きすぎない両目が少しきつめで、でも微笑むと細くなって柔らかい印象。小振りな鼻と薄い唇。白い肌に、毛先だけふわっとした柔らかそうな髪の毛。 女子が離さないのも離れないのも納得だわぁ。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加