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何かと不安定な入学式後の時期が、一日一日終わっていく。部活動の見学、決定や、各教科の担当の先生の顔を覚えたり。担任の顔も覚えられないのに。ついでに校内も覚えなければならない。授業も始まり慌ただしい。それから交遊関係も。 意気投合する奴らはすぐに仲間を見つけ、大なり小なりのグループを作っていた。教室の真ん中の王子様の取り巻きは、それとは少し違う気がするが、女子達は相変わらずアイドルを囲んで楽しそうだ。 教室をよくよく見ると、男子も女子もほどよく混ざりあったグループが出来ている。個性をうまく出せている奴は、他人の目から見ても分かりやすいのか、取っ付きやすいのかもしれない。 例えば、軽く脱色した髪の毛を肩の辺りまで伸ばして、ナチュラルメイクを施した"男の娘"がいる。細身の身体はもしかしたら俺と同じくらいかより細いかもしれない。ふわっとしたカーディガンに細身のパンツが、華奢な感じを際立たせて、可愛いと思う。お喋りしているのは同じクラスの女子と、たぶん違うクラスの女子。メイクや化粧品についてや、服のブランドなんかで盛り上がっている。 話題を共有して、切磋琢磨する姿に俺は感心するばかりだ。可愛くなりたくて、綺麗になりたくて、情報を集めている。理想に向かって努力や研鑽を惜しまない姿は男も女も関係なく、素敵だと思う。 俺みたいに見た目も中身も男なのに、笑ったら襲われるとか、理不尽極まりない。 とにかく、男らしい奴と女らしい奴、そして男っぽく振る舞う奴と、女っぽく振る舞う奴がこの教室に、いやこの学校にはたくさん居るわけだ。それが性別的に男か女かなんて関係なく。それを誰も否定しないし、受け入れている。そこで問題になるのが。 パッと見で、男か女かよくわからない奴だ。 どっちにも見える。所謂中性的な存在。 それはそれで受け入れてくれる学校だし、誰もどちらかに決めつけたりもしないけど、この教室では少数派のようだ。なんとそこに俺は入っているらしく、なにが言いたいかというと、この教室で一人ポツンと自分の席に座っているのは俺だけなのだ。 つまり、ボッチだ。 いや、理由はわからなくもない。入学式のときから常にマスクを常時装着で、前髪も長く顔が見えない。教室の一番後ろの角席を陣取り、俺からは人に話しかけることなどまずない。つまりコミュニケーションを取らないのだ。 べつに、モブとして生きていきたい俺としては、ボッチ最高なので構わない。 おそらく、コミュ障だと思われているんだろう。そんなことはないんだが、下手に誰かに話しかけようものなら、円滑なコミュニケーションを取ろうとするなら必須となるのが"笑顔"だ。しかしこの笑顔は俺にとって、一番やっちゃいけないコミュニケーションの取り方。 だって、笑ったら襲われるから!!! 笑わなければ普通なわけだから、授業で先生に質問を当てられれば答えるし、隣の席の奴に消ゴムを貸すことだってある。しかし隣の席のといっても、席順が決まっていないから毎度違う奴が座っていたり、誰も座らなかったりする。 この席を誰かが使っているときは、なるべく別の端っこの席を使うようにして、毎日目立たないように過ごしている。 ……こんな風に生活していて、友達とか出来るわけないよな。 別に友達百人欲しいとか思わないけど。なにより俺は、自分の貞操を守りつつ、ひっそりと、しっかりと高校を卒業するのが目的だから。
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