風、薫る

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 りょーちゃんが検査入院している病院は、一つ駅を超えたすぐ側にあった。  病院へ向かう電車の中で私は卵を守る親鳥のようにリュックを抱きしめている。  大事に温めて作り上げた宝物。  それを見せたい人がいる。  待っていてくれる人がいる。  まだかな。 「まだかな」  入院部屋のベッドから窓の外を眺め、少年は呟く。  病室の窓の隙間からいたずらな夏風が入り込み、待ち人の訪れはもうすぐだと知らせるように風鈴がちりんと鳴った。            (終わり)
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