風、薫る

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(あれ……、手紙、じゃない?)  てっきり中には手紙が入っていると思っていたのだが、どうやら違うらしかった。  中に入っていたのは一枚の、小さな……。 「メモ?」  記載されている文字を、目を凝らして読む。 『○○病院 472号室  待ってる』  “約束だよ”  記憶の風が吹き抜ける。 『あやちゃんの絵、変!!』 『ほんとだ、なんか怖いー!』  あれは小学2年生のときだった。  美術の授業で学校の風景を描く課題が出た。  学校のどこを切り取ってもいいが「花」を含むように言われ、私は学校の花壇の植物が昆虫に食べられているところを画き、背景の青空は真っ赤に塗った。  その方が植物の色が綺麗に見えると思ったし、何より赤が好きだった。  でもみんなは『変だ』とか『怖い』とか言って私を異物扱いした。  学校の先生は肩を落とす私に、『あやちゃんは夕方のお空を画いたんだよね』と慰めた。  私は首を立てに振らず、歯を食いしばり大粒の涙をこぼした。  違う。  でも上手く言えない。  それ以上どんな言葉をかけたらいいのか分からなくなった先生は、ティッシュを差し出し他の子の絵を見に行った。  誰も私を理解してくれない。  後から涙が溢れてくる。 『黄色いお花、綺麗だね』  不意に耳に届いた声。  俯いて隠していた泣き顔で見上げれば、男の子が一人、食い入るように私の絵を見ていた。 『僕もこの近くで絵を描いてたよ。でもこんな綺麗な花が咲いていたの、全然気づかなかった』  目が合えば『僕のも見る?』と聞かれ、頷く。 『こっち』と、手を引かれて席を立つ。   案内された席にある彼の絵を見て、私の涙は引っ込んだ。
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