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りょーすけ君の絵は私の絵よりもめちゃくちゃだった。
真っ黄色の背景に、どでかい黒い物体。
(なに、これ……)
ぱっと見、わけが分からない。
でもよく見てみると関節が分かれ足のような物が生えている。
「これ……、蟻?」
奇抜な絵、でも――。
「なんか、かっこいい」
「そう!!そうでしょう!!」
りょーすけ君は頬を赤らめ、興奮気味にそう言った。
「すごい!初めて伝わった! 僕、蟻が一番かっこいいって思ったんだ。だから画いた!」
なんて、自由な。
あれだけ先生に「学校の風景」を「花」を含むように画けと言われたのに、りょーすけ君の絵には「蟻」しかいなくて、学校はおろか花など背景で見る影もなかった。
「あやちゃんの絵もかっこいい!!すごくいい!!」
(……いいの?)
みんな変だと言うのに。
「あやちゃんの絵、僕は好きだよ」
にへら、と笑顔を向けられ、自然と顔から力が抜ける。
その日私は安心したのだ。
心から、すごく、安心した。
その日以来、休み時間になると私たちは机をくっつけて一緒に絵を描くようになった。
私は私の絵を描き続けた。
それを批判する人はいつもいた。
でも別によかった。
わかってくれる人がいるからいい。
りょーすけ君がいるからいい。
やがて“りょーちゃん”は休みがちになって、私は一人で休み時間に絵を描くようになった。
いつものように病室へ行くと、不意にりょーちゃんがぽつりと溢した。
「……絵、やめないでね、あやちゃん。僕、ずっと、どこにいても見てるから」
真剣な顔で言うものだから、茶化すことができなかった。
見つめ返して、「うん」としっかり答える。
りょーちゃんは安心したように顔を綻ばせ、小指を伸ばす。
「約束」
ためらいがちに伸ばした私の小指は、しっかりと握られる。
「約束」
もう一度笑顔で言われ、約束、と私も呟いた。
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