風、薫る

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      ガラガラ!!  勢いよく保健室の扉を開ける。  白衣を来て眼鏡をかけた、焦げ茶の髪にゆるくパーマをかけた保健室の先生が振り返る。 「お姉ちゃん……!!また指切っちゃった」 「あんた、また?」  驚きと呆れの混ざった表情に出迎えられる。  座るよう促され、傷口を見てもらう。 「っていうか、学校では“お姉ちゃん”って呼ばないの。約束でしょう?」 「そうだった。“西条先生”」  “西条先生”は私の9つ上の従姉妹だ。  この高校に入学したら、偶然、保健室で保健の先生をやっていた。  彼女は今年で24になるが、1ヶ月前に3年同棲した彼氏と分かれて未だに荒れている。  ――と、「これぐらいなら大丈夫」と唐突に消毒されて飛び上がる。 「いった!!」 「がまんがまん」  傷口の上からガーゼを当てられ、消毒液がよく染み渡るように軽く押される。  いじめだろうか。 「なに、また彫刻?」 「……うん、美術部の夏休みの課題なんだけど、前倒しでやってるの」 「ふーん、ま、熱心なのはいいけどね。あんたすぐ上の空になるんだから気を付けなさい」 「……」  同棲解消になったことをつつけば“西条先生”の傷口をえぐることなど容易いが報復が怖いのでやめておく。 「ゴホ……ッ、ん……」  不意に咳払いが聞こえ、ベッドに視線をやる。  カーテンが閉め切られたベッドの足下に、上履きが置いてあるのが見える。  青色、ということは同学年。 「なんだ、人いたの?」  声を潜めて問えば、 「そういやいたな」となんとも適当な返事が返ってくる。 「最近よく保健室に来る子なのよ」 「ふーん」 「これでよし!もう戻っていいよ」  言われて私は立ち上がる。 「ありがとう」  それから私は美術室に戻り、課題に励んだ。         *     *     * 
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