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私が躍起になって夏休みの課題を前倒しで終わらせようとしているのには理由があった。
課題に割く時間を少しでも減らして、夏休みに催される同人誌の即売会に集中したかったのだ。
「お……、終わらない」
机の上に散らばるエナジードリンクの空缶。
ウィダーインゼリーやカロリーメイトの抜け殻たち。
それらはすべて“作品”を仕上げる為に注いだ時間の対価。
「間に合うかな」
深夜三時。
私はペンタブのペンをお団子にした頭に刺し、カレンダーを見て残りの日付を計算する。
即売会まであと1ヶ月を切った。
ネームはとっくに出来上がり作業も終盤なのになかなか仕上がらない。
「やっぱり学校に行って部活やって……、同人誌の作成、ってなるとキツいな」
使いすぎて熱くなった額に手を当て、何杯目かの珈琲を入れに椅子を立つ。
腰が、なんかよくない音がした。
キッチンでお湯を沸かしながら、「はぁ」と大きなため息を吐く。
(こんなことして、意味、あんのかな)
周りのクラスメイトは漫画なんて画かず勉強に勤しんでいる。
休日に引きこもって熱が出るほどネームを考えたりしない。
部活に情熱を捧げたり、恋人を作ってデートをしたり、友達と買い物へ行ったり。
絵を描くのは好きだが、本気で将来漫画家になりたいのかと聞かれたら分からなかった。
それを決定してしまうには、十六歳という年齢は早すぎるように思う。
しかしだからといって、親や学校の先生の言いなりになるのも違う気がする。
自分の心の声より、他人の声を優先して。
未来の私は後悔しない?
(この道を進めば大丈夫って、絶対的に保証された道があればいいのに)
珈琲の苦い香りが、鼻腔に広がる。
(何で私、画いてるんだろう)
開け放った窓の外では、ぼやけた薄雲が月を隠していた。
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