風、薫る

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 翌朝、朝食を食べ損ねたので何か恵んでもらおうと保健室に顔を出した。 「西条せんせー、って、あれ」  誰もいない。  おかしいな、と辺りを見渡していると、映ってはいけない物が視界に映り、通り過ぎかけていた首を勢いよくぐりんと戻し中々見事に二度見した。  (なんで私の同人誌……!!)  驚きは声にならなかった。  バタバタと走って冊子を手に取り、ものすごい勢いで制服の中に隠す。  周囲をキョロキョロと見渡すが、大丈夫。誰もいない。  恐る恐るもう一度取り出して表紙を見てみる。  「ヴッ」  腹パンでも食らったかのようなうねり声が出る。  もう一度見たところで変わらない。  それは去年、初めて作った私の同人誌だった。  やめてよやめてよ、こんなところで。  西条先生のものかと思ったが、お姉ちゃんには伝えていない、というか身内にはひた隠しにしているのであり得ない。  というのも、私の絵は独特らしく、小学生の頃に“怖い”だとか“気持ち悪いだとか”揶揄された。  同人誌の漫画はその私らしさが全開であり、人によっては受け付けない。  だから簡単に人に見せないようにしているのだ。  それがこんなところで野ざらしに。 「なんてこと」  こんなことがあっていいのか神様、と動揺して動けずにいると、どこからか足音が迫ってくる。  少しずつ大きくなるそれにとっさに同人誌を鞄に突っ込む。  幸い足音は保健室の前を通り過ぎていったが、『こんなパニック状態を西条先生に見られたら怪しまれる』と、慌てて保健室を飛び出した。
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