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ガラガラ!っと勢いよく保健室の扉を開ける。
「はーい!」
椅子に腰掛けたまま西条先生は振り返り
「ってなんだ」
と、従姉妹の顔を捉えた途端、完璧な営業スマイルは消えた。
「お姉ちゃん、昨日そこのベッドで寝ていた人がいたでしょう? その人誰? 「橘」って名字じゃない?」
扉を開けた勢いのまま質問をぶつける。
「橘」と聞いた途端、西条先生は何か思い出したらしく、手を滑らせてピンセットを落とした。
「……お姉ちゃん?」
足下に落ちたピンセットを拾って差し出せば、がしっと手首を捕まれる。
「ごめん!そうだった!!亮介君にあんたに渡してくれって頼まれた物があったんだった。朝ここへきたときにも思い出したのに、また忘れてた」
しまったという表情は、しだいに怪訝な表情に変わる。
「でも、おかしいのよね。昨日それを置いて帰っちゃって、なのに朝来たらなくなっていて……。誰かが持って行っちゃったのかな?」
なにをやっているんだ、お姉ちゃん。
しっかりしてよ、社会人。
しかし秘め事を雑に扱われたことより、引っかかった言葉があった。
「亮介君?」
「そう!」と嬉しそうに西条先生が返す。
「私も昨日、あんたが出て行った後に本人から聞いてびっくりしたんだけど、あの子“りょーちゃん”だったんだよ。覚えてない? りょーちゃん。小学生のときよく遊んでたでしょ。小学校2年生になって引っ越しちゃうまで、特別家が近かったわけでもなかったのに」
そういやいたかも、そんな友達。
摩耗する日々に忘れていたけれど、私にも友達がいた季節があったんだった。
引っ越してしまったときは息ができなくなるほど泣いて、しばらく立ち直れなかった。
いつの間に、戻ってきていたの。
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