風、薫る

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 息せき切って病院へ行き、扉を開け、目の前の現実が飲み込めない。 『どなたかな?』  りょーちゃんのベッドには見ず知らずのおじいさんがいた。 『なんで……』  知らないおじいさんの前で膝から崩れ落ち、ぽろぽろと涙が溢れてくる。  おじいさんは驚いて、『おや、どうしたかね。大丈夫かい』と声をかけてくれるが反応できない。  地べたに座り込んで、堪えきれず泣きじゃくる。  数分後、大慌てで後を追いかけてきたお母さんが私を見てぎょっとし、周りの人たちに何度も頭を下げていた。 「……あや?」  固まっていた私にお姉ちゃんが声をかける。  昔の記憶から現在に意識が戻る。 「渡してって頼まれたのって冊子? それとも封筒?」 「冊子だったよ。なんか綺麗なイラストの」 「ごめん、それ私受け取った」 「あ、なんだそうだったの? じゃあいいや」 「りょーちゃんって何組?」 「7組よ、あんたと同じ。まだ教室行けてないけどね」 「そっ、か……」  同じクラスか。  心なし浮き足立ち、私は保健室を後にする。  そして友達のいない教室でぽつんと自分の席に座り、けれどこれまでになく心は穏やかだった。  まるで目に見えない何かに守られているような。 (差し出し人もわかったことだし、封筒、あけてもいい、んだよね?)  鞄から冊子を取り出し、封筒を抜き出す。  封はされておらず、簡単に中身が取り出せる。
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