2019年

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 最寄りの駅までの道は通学路になっている。途中それを分断するように二車線の見通しの良いバス通りがある。その横断歩道に、信号機を見つめる赤いランドセルの少女が立っている。車が来ないのは一目瞭然だが、信号待ちをしているのだ。道路の向かい側には自転車でやってきた高校生が、やはり信号を待つために止まった。2人の学生の横を、アラサーやアラフォーほどの大人たちが平然と道路を横断してゆく。 ――ドロリ、腐った大人。  馬鹿みたいに一緒の通勤時間は、駅のホームが人でごった返す。そこを携帯電話に釘付けになった男がドンドンこちらに向かって直進してくる。体を斜めにしてすれ違おうとしたが、男がそのまま突き進んできて結局肩がぶつかった。男は携帯電話から顔も上げず舌打ちだけを残していった。 ――ドロリ、ホームに落ちればいいのに。  家畜のように、ぎゅう詰めにされた電車内。また女が乗ってきた。気づけば周りを女に囲まれていて、いらぬ勘違いをされないように身を縮こまらせつつも両手を上げるという、明らかに不可思議な姿勢で踏ん張り続ける。 ――ドロリ、女性専用車両に行けよ。  従業員口へと路地を進めば嫌でも目につくのが、点々と並ぶ自動販売機の周りに溜まっている喫煙者という名の人毒だ。条例を無視して喫煙テリトリーを作り、ゴミ箱もないのに吸い殻と一緒に空き缶やパンの袋などを捨ててゆく。群れることで強気になり、人の目を気にせず、其処が正しい場所と思わんばかりの態度。路上のゴミも煙のように消えるとでも思っているのか。 ――ドロリ、煙と一緒にお前らも消えろ。  夕方、ようやく自分の仕事に集中できる頃に「アレありますか?」だの「コレどうしたらいいですか?」と言ってくる他部署の連中。とっくに連絡を入れて指示は出してあるのだ。また一から説明をしようものなら怒りで自分を制御できなくなりそうなので「やっとくから」と一言答えてやり取りを終わらせる。明日までの書類の催促に来た上司が「残業はダメだからな」と、国が決めた改革という体のいい言葉を残して去ってゆく。 ――ドロリ、ドロリ、みんな腐り切ってんな。  明日締め切りの書類を持って泣く泣く定刻に会社を出る。歩道にたむろする呼び込み。皆余裕なく、譲り合いのない帰宅ラッシュ。点字ブロック上の並ぶ自転車。歩道にはみ出して停まっている車を避ければ吐き捨てられたガムを踏んづける。 ――ドロリ、ドロリ、ドロリドロリドロリ。
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