この世界の片隅に

2/6
前へ
/11ページ
次へ
 周りを見回した男は、入れと手で示すと背を向けた。女は渋々とついて部屋に上がった。  玄関マットよりも小さいには、住人の秋山の物であろう、先の尖ったボロボロの革靴が脱ぎ捨てられていた。女は靴を脱ぎかけて気付いた。 「松田さん靴! 土足って!」 「足怪我するといけないから、こっちには来るなよー」  松田と呼ばれた男は言葉に耳を貸さず、さっさと奥の部屋へと行ってしまった。玄関脇には申し訳程度の台所があり、上がり込むと床板がギシリとなった。  木製の四角いテーブルに丸椅子が置かれた台所を見回した女は、物が乱雑にあるわりに生活感のない空間だなと思った。奥の部屋から、松田が物色している音が聞こえた。 「だから勝手に……」  声をかけながら覗き込むと、そこには住人の秋山が居た。四畳半の和室の中央にパイプ椅子が置かれ、そこに座った秋山の顔に生気はなかった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加