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いつもと同じように、俺よりも頭ふたつ分小さい彼女の隣に並びながら、俺はずっと言葉を選んでいた。
佐野傑に茶封筒を渡した彼女。俺は静の彼氏じゃないから、聞く権利はないかもしれないけれど。だけど何なのだろう。この胸の引っ掛かりは。
「静、あのさ」
「なあに?」
「さっき、俺、見ちゃったんだ。静がD組の佐野くんに、何か渡してるところ」
できるだけ声のトーンが低くなりすぎないように注意したけれど、無駄な努力だったかもしれない。俺の声は不安を孕んでふるえていた。
彼女は歩きながら、ぱちぱちと瞬きをした。なにを言うのだろう。
「佐野くんに借りてたお金、返しただけだよ?」
静からの返答は思っていたよりも最悪だった。
高校生なのに、お金の貸し借り? それって、大丈夫なやつ? いったいいくら借りたわけ?
聞きたいことはたくさんあった。だけど、うまく言葉が出てこなかった。
「あんまり金銭のやりとりは、しない方が良いとおもう。トラブルの元じゃん」
「なんで? 雪くんには関係ない」
決死の言葉は、無関係、の言葉一つでかんたんに排されてしまった。
そりゃあ、確かに無関係だ。だって俺、この子と付き合ってないもん。
でも、こんなに気になるのはどうしてなんだろう。俺は、たった1ヶ月、放課後の数十分を共にしただけの静に、愛着のようなものを感じているのだろうか。
なんて身勝手なことだろう。彼女はたぶん、そういう気持ちを欲していない。
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