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悪びれる様子のない彼女に何を言っても逆効果な気がした。だけど、見せかけの彼氏として一応、心配していることはどうしても伝えておきたかった。
「ごめん、すこし気になっただけ。あいつに借りるくらいなら、俺が貸すから」
全然解決にならない提案をしたところで、きっと意味はないけれど。別に俺だって、そこまで余裕があるわけじゃないし。
静はこつこつとローファーを鳴らしながら、わかったあ、と気の抜けた返事をした。本当にわかってんの、それ。ていうか金借りることは遠慮しろよ。まったく。
「雪くんって、やさしいんだね?」
「別に、そんなことないと思う」
「そっか?」
飴たべる? と静はいつものミント味の飴を渡してきた。渡されたそれを、何も考えずに口に含んだ。ころころと口内で転がるミントが心地よい。
俺ってほんとうに甘いと思う。ぐつぐつと俺に対する期待を煮詰めて攻撃をしてくる母親に比べたら、ミントの飴で俺の機嫌を取ろうとする静は可愛らしいものに感じてしまうのだから。
べつに、ふりじゃなくていいから付き合っちゃおうよ、の一言さえ出れば、俺は彼女に堂々と意見できたのかもしれない。でも、人間関係についての経験が乏しい俺に、その言葉を捻り出すハードルは大きすぎた。
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