抑圧の少年(塩田雪)

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 彼女に対する気持ちの揺らぎを感じながら、彼女を家の近くまで送り届けたのちに、俺はいつのもように帰宅した。  そういえば、今日は煙草を吸っていない。(せい)との見せかけ交際がスタートしてから、徐々に煙草を吸う頻度が減っているような気がした。たいへんよろしいことだ。  扉を開け、家に入る。 「ただいま」 「……雪くん。ちょっとそこ、座って」  いつも通り、おかえり、の一言が抜けたコミュニケーションには慣れっこだったが、今日はなんだか、母親の様子がおかしかった。  スニーカーを脱いでリビングに入る。そこには母親が神妙な顔つきで座っていた。  テーブルの上には、くしゃくしゃのプリントが3枚に、お菓子の空箱。丸まったティッシュが4つと、煙草の箱がひとつ。  ぞぞ、と背中が粟立つ感覚がした。  ——部屋のゴミ箱を、漁られている。  プリントとお菓子はまだよかった。でも、そのティッシュ。どういうこと。だってそれ、俺が出したやつ。白濁を吸わせた、性欲の成れの果て。ていうか煙草。あれ、煙草、バレてんじゃん。  羞恥心と絶望で頭がどうにかなりそうだ。  思春期の息子のゴミ箱を漁るなんて、どうかしている。だけど、テーブルの上に置かれている煙草の箱のせいで、俺は全ての発言権がなくなった。 「雪くん。全部、説明して頂戴」  母親はまず、くしゃくしゃになったプリントを指で摘み上げた。
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