少女(有川静)

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 小学生の頃から、お母さんがご飯を作ってくれないとき、兄のご飯を調達するために、たまに万引きや廃棄弁当を盗んだりしていた。  だけどこの頃、母はあたしのご飯を全く作ってくれなくなった。だから中学生になったあたしは、自分が生き抜くために万引きを繰り返すようになった。  いつもの薄暗いスーパーの、惣菜パン売り場。人目がなく死角の多いここは、絶好の万引きスポット。  いつもはパンで我慢するのに、その日はなぜか、どうしてもお米がたべたくなってしまった。もうここ1ヶ月、中学校の給食の時間を除けば、毎日盗んだパンを1個だけ食べていたのだ。  おにぎり、たべたいなあ。  ふらり立ち寄ったのは、惣菜コーナーだった。パックに手作りおにぎりがふたつ入ってる。  美味しそうだなあ、食べたいなあ。  がまんできなくなっちゃって、それを手に取った。一応、周囲を確認して、誰もいないところで、それをそっと、カバンに入れた。手はかなり慣れていた。  雑誌コーナーで立ち読みして、お菓子コーナーを眺めて、ちょうどいい塩梅で、お店を出る。  おにぎり、たのしみだなあ。はやくたべたいなあ。  るんるん気分で、自動ドアをくぐったときだった。 「お客様。会計が済んでいない商品、ございませんか?」  ぐ、と肩を掴まれる。見ると、男性に鋭い目つきを向けられていた。  あれ、なんかデジャヴ。昔も、廃棄のパンを盗んだときにこうやってばれたことがあったっけ。もういいや、思い出せない。だけど、この感覚は覚えている。この感情、諦めっていうんだって。
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