少女(有川静)

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 目の前には、中年の男性と、その後ろに、若くて体つきがしっかりしているスタッフがふたりいた。ふたりともあたしのことを、きもちわるいものを見るみたいな目をして見ている。 「事務所の方で、カバンの中、確認させていただいてもよろいですか?」  あーあ。欲張りして、お米食べようとしたからかな。いつも通り、パンにしておけばよかったのかなあ。あたしってほんと、悪い子だなあ。 「ついてきてくれますか?」  掴まれた腕を問答無用で引かれる。久しぶりに、こわい、と思った。何をされちゃうんだろう。  連れて行かれた事務所は、薄暗くて、刑務所みたいに狭い場所だった。もちろんあたしは刑務所になんか入ったことはないけれど。  テーブルが一つと、パイプ椅子が向かい合うように置かれている。  奥に促されて座ると、中年の男の人が目の前に座った。よく見るとネームプレートには店長、と書いてある。  もう一人の男性スタッフは、薄く扉を開けた横に立っていた。あ、きいたことある。扉を完全に閉めちゃうと監禁になっちゃうから、開けるんだよね。  店長にカバンの中身を漁られた。中からは、間違いなくさっきあたしが盗ったおにぎりのパックが入ってる。  ……たべたいなあ。 「あなた、どこ見てるの?」 「……」 「どうしてこんなこと、したんですか?」  一粒一粒のお米が宝石みたいにきらきらと輝いて見えた。  なんであんなことしたかって、そんなの、最初から決まってる。 「美味しそうだったからです」 「あのねえ、美味しそうでも、万引きはだめだよ。知ってるでしょ?」 「……たぶん」 「はあ、もう、ダメだね。とりあえず、保護者に連絡ね。ここに、名前と電話番号、書いて」  ず、と目の前に差し出されたのは、白い紙と鉛筆だった。紙の上に乗せた「有川静」の文字は、思った以上に筆圧が弱かった。その下に、うろ覚えの電話番号を書いていく。  お母さん、あたしのこと、思い切り怒ってくれるかなあ、なんて、心のどこかで期待していた。
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