9人が本棚に入れています
本棚に追加
目の前には、中年の男性と、その後ろに、若くて体つきがしっかりしているスタッフがふたりいた。ふたりともあたしのことを、きもちわるいものを見るみたいな目をして見ている。
「事務所の方で、カバンの中、確認させていただいてもよろいですか?」
あーあ。欲張りして、お米食べようとしたからかな。いつも通り、パンにしておけばよかったのかなあ。あたしってほんと、悪い子だなあ。
「ついてきてくれますか?」
掴まれた腕を問答無用で引かれる。久しぶりに、こわい、と思った。何をされちゃうんだろう。
連れて行かれた事務所は、薄暗くて、刑務所みたいに狭い場所だった。もちろんあたしは刑務所になんか入ったことはないけれど。
テーブルが一つと、パイプ椅子が向かい合うように置かれている。
奥に促されて座ると、中年の男の人が目の前に座った。よく見るとネームプレートには店長、と書いてある。
もう一人の男性スタッフは、薄く扉を開けた横に立っていた。あ、きいたことある。扉を完全に閉めちゃうと監禁になっちゃうから、開けるんだよね。
店長にカバンの中身を漁られた。中からは、間違いなくさっきあたしが盗ったおにぎりのパックが入ってる。
……たべたいなあ。
「あなた、どこ見てるの?」
「……」
「どうしてこんなこと、したんですか?」
一粒一粒のお米が宝石みたいにきらきらと輝いて見えた。
なんであんなことしたかって、そんなの、最初から決まってる。
「美味しそうだったからです」
「あのねえ、美味しそうでも、万引きはだめだよ。知ってるでしょ?」
「……たぶん」
「はあ、もう、ダメだね。とりあえず、保護者に連絡ね。ここに、名前と電話番号、書いて」
ず、と目の前に差し出されたのは、白い紙と鉛筆だった。紙の上に乗せた「有川静」の文字は、思った以上に筆圧が弱かった。その下に、うろ覚えの電話番号を書いていく。
お母さん、あたしのこと、思い切り怒ってくれるかなあ、なんて、心のどこかで期待していた。
最初のコメントを投稿しよう!