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お兄ちゃんはその後、お腹の空いたあたしに、近くのコンビニでたくさん食べ物を買ってくれた。
お兄ちゃんは最近、お金をたくさん持っているらしかった。お母さんにもらっているのか、それとも他の方法でお金を得ているのかはわからなかったし、聞くことができなかった。
家に帰る前に、ぜんぶを貪るように食べた。お兄ちゃんは、たくさん食べな、と頭を撫でてくれた。あたしを思い切り殴ったのと同じ手で。
もう、わけがわからない。だけど、お兄ちゃんはあたしを愛してくれていると、そういう感覚だけがあった。
ふたりで家に帰ると、リビングのソファで、お母さんが放心状態で天井を見上げていた。
お兄ちゃんがお母さんのところに駆け寄る。やさしそうな声を出して、お母さんに触れた。
「母さん、帰ったよ」
「……」
「静にはおれからきつく言っておいたから、母さんはなにも心配しないで」
「……絃、」
「おれが、静のことちゃんと見てなかったのが悪いんだ。母さんはなにも悪くない。だから、部屋でゆっくり休んで」
「……お母さんは、わるくない?」
「うん。悪くない。おれが悪い。おれがこれから、ちゃんと静のこと躾けるから。だからおれのこと、見捨てないで。おれ、母さんがいないと生きていけないから」
お兄ちゃんが、この家の全てを支配していた。
ヒステリー寸前のお母さんを鎮められるのは、有川絃ただひとりだった。
いいなあ。あたしも、お母さんと話したいなあ。無理かなあ。もうここ数年、まともに会話すらできていない。
「静。部屋で待ってて」
お兄ちゃんはお母さんの肩を抱きながら、冷たい視線をこちらに送ってきた。
部屋で待ってて、って、これからまだ何かあるのかな。今日のことって、これで終わりじゃなかったの?
……今日のこと、殴られるだけじゃ済まないのかあ。
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