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母が摘み上げたプリントは、満点を取れなかった小テスト。10点中9点と示された、空間ベクトルの小テストだ。
「それは、平均点が5点だったときの、」
「平均点とか、関係ないでしょう? 雪くんは、常に満点じゃないといけないの」
知らねえよ。と喉に出かかった言葉を押し込める。言い返すな。もっと面倒なことになるから。
母は3枚の小テストの用紙をテーブルの端に追いやった。尋問はまだ、始まったばかりだ。
「そしてね、これ、お菓子の空箱。お母さん、お菓子なんていつ許可した? 人工甘味料がどれだけ危険か、ずっと話してきたのに、お母さんの言うこと聞けないの?」
「……ごめんなさい」
「しかもね、お菓子の空箱に、これが詰まってたのよ」
母親は丸められたティッシュと煙草の空箱を俺の目の前に掲げる。高校生男子には性欲がないと思っているたちなのか、ティッシュを摘み上げる母親の顔は嫌悪で満ち満ちていた。
「雪くん、どうして? 勉強しないで、エッチなこと考えてたの? ねえ、気持ち悪いわよ」
母親は吐き出した快楽を受け止めたティッシュを見ながら、泣き出しそうな顔をした。
汚いって思うなら、テーブルの上に出さなきゃいいのに。汚れるよ。俺の穢れた体液で。
母親に自慰行為の残骸を拾われ、テーブルに広げられるこの状況は異常そのものだ。世間体を気にするくせに、家の中の環境は劣悪な塩田家。すでに希薄化した感情の中で、死にたいな、とふと思った。
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