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半ば泣きながら、羞恥で出そうもないものを無理やり捻り出すように、事を致した。
兄は無表情でスマホのカメラをあたしに向けていた。
こわくてふるえていた。お兄ちゃんはただ、流れ作業みたいに、死んだ目で画面を覗き込んでいた。
こんなに強い負の感情が湧き上がってきたのは久しぶりだった。だけどきっと、こんな行為もそのうちなんとも思わなくなるのだろう。
ひとつの事象とそれに付随する感情の組み合わせを覚えて、そのつながりを切る。結局はその繰り返しだ。
そうすればそのうち、お兄ちゃんに撮られることにも慣れて、傷つかずに済む。
「うん。いいね。服着ていいよ」
お兄ちゃんはスマホで撮れた写真を確認しながら言う。慌てて服を着ると、虚しさと恥ずかしさと、かなしみでいっぱいいっぱいになって、頭のなかがぐちゃぐちゃになった。だけど、この感情を覚えたからもう平気。次からは、もっと上手にこなせるはず。
「よくがんばったね。休日だし、外にご飯でも食べに行こうか」
飴と鞭、ということばがある。お兄ちゃんは飴も鞭も、扱いが天才的にじょうずだった。
今すぐに倒れてしまいそうな、貧血ぎみの身体を支えながら、お兄ちゃんはあたしを外に連れ出した。
連れてこられたのは、近所にあるファミレス。
好きなだけ頼みな、とやさしく笑われ、あたしは本能のままに、ハンバーグとお米を貪った。
次にこんなものを食べられるのはいつになるかわからない。今後1週間分の食い溜めをするつもりで、たくさん食べた。
そんなあたしをにこにこした顔で眺めていたお兄ちゃんが、ふと、こんなことを言った。
「静。おれがこうやって、静にごはんをご馳走できるお金があるのって、なんでだと思う?」
「……え?」
「答えは簡単で、人の欲を食い物にしたサービスは、売れやすいからなんだ」
おなかいっぱい食べるためには、お金が必要だよね、とお兄ちゃんが続ける。あたしは箸を動かす手を止めて、兄の言葉に聞き入った。
「静はさ、お金稼ぐの、興味ある?」
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