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たしかにお兄ちゃんは最近、お金持ちだ。
てっきり、お母さんにお小遣いをたくさんもらっているのかと思っていたけれど、今の口ぶりや、さっき写真を撮られたときに「高く売れる」なんて言っていたことから察するに、お兄ちゃんは何か、お金を作る手段を持っているらしかった。
「ご飯買うのに、お金、ほしい」
何も考えずにそう口にした。
こうやって言っておかないとお兄ちゃんは機嫌を悪くするし、それに、ご飯が食べられず倒れそうな日々にそろそろ限界を感じていたこの頃、お金がどうしても必要だった。
お兄ちゃんは口角を上げた。
「おれの指示通りにできる?」
「……できる」
「じゃあ、このあと早速やってみようか。お得意さんに連絡してみる」
お兄ちゃんはそのまま、スマホを触り出した。
なにをするの? と尋ねると、お兄ちゃんは、あとで指示する、とだけ言う。
よくわからないけれど、お兄ちゃんの言う通りにしたら、お金が手に入るらしい。もう、藁にも縋る思いで頷いた。
愚かだな、と思う。
お兄ちゃんに傷つけられ、一生残る火傷の痕もつけられているのに、あたしの名前を呼び、あたしに救いの手を差し伸べてくれるのはお兄ちゃんしかいないから、結局あたしはいつも、お兄ちゃんについていってしまう。
お母さんはあたしになんか興味ない。忙しいお父さんとは話す機会すらない。あたしを宇宙人みたいに扱う学校のひととも、もちろん関わりはない。
だけど目の前にいる、遺伝子を半分分かち合った兄だけが、あたしをあたし個人として認識していた。
お兄ちゃんだけが、まがりなりにも、あたしを見ていたのだ。あまくて苦くて痛い関係を壊せずにいるのはあたしも同じだ。
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