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本番、の意味を掴みかねるほどあたしは純粋じゃない。
田中さんが欲している行為なんて、もちろんわかってる。そしてお兄ちゃんが今まさに、あたしを売ろうと画策していることも、きちんとわかってるつもりだ。
お兄ちゃんは一度あたしの顔をちらりと見た。そしてその視線をすぐに、田中さんに戻す。
「いくらで買う?」
「3でどう?」
「安すぎ。別5はもらうよ」
お兄ちゃんがぴしゃりと言い放つと、田中さんは眉をひそめた。
あたしを介さない値段交渉に、文句を言うつもりなんてなかった。だって、商品が喋るのはおかしいでしょ?
「それは高いよ、サトルくん」
「はあ、わかってないなあ。この子、中学生ですよ? 未成年淫交がバレたら、田中さん、困るでしょ? こんなこと知られたら会社もクビだし、奥さんにも愛想尽かされますよ。口止め料も兼ねてますんで、妥当な値段でしょ」
「それを言ったら、サトルくんだって、彼女の売春を斡旋してるじゃないか」
「おれも彼女と同じで未成年だから大して罰せられないし、失うものもないんで、問題ないですね。良いんですか? こんなにかわいい中学生とできるチャンス、滅多にないですよ?」
……なに話してるんだろう。むずかしいこと、あんまりよくわかんないや。
「はあ、仕方ないな。わかった。5払うよ」
「毎度。近くにホテルあったんで、行きますか」
お兄ちゃんが田中さんから1万円札を5枚受け取った。お金がたくさんで、すごーい、と思った。
行くよ、と兄に促される。
3人で、いつもの雑居ビルから徒歩数分の路地裏にある、少しだけいかがわしい雰囲気のある建物に連れてこられた。あたりは昼なのに薄暗い。
建物の前で、兄が言う。
「じゃー、田中さん。おれはここで待ってるんで、スマホと免許証、おれに預けてから行ってください」
「……なぜだい?」
「彼女の写真とか、撮られたら困るんですよ。……わかっていただけますよね? あと、2時間以内に戻ってきてくださいね」
「……」
「それじゃあ、楽しんで」
相手に行間を読ませて、間接的に相手を脅す兄のやり方は、ほんとうによくできているなと思った。
田中さんはお兄ちゃんにスマホと免許証を渡すと、あたしの腰をぐ、と掴み、建物の中にあたしを誘った。
建物に入る直前、首だけを振り返らせて兄の顔を見る。兄は、ただ無表情であたしを見送っていた。
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