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タッチパネルに表示されてある、「休憩」とは何なのだろうと考えていた。
たとえばこれから、そういう行為が始まるのであれば、「休憩」はおかしいんじゃないかとか、そういう余計な思考ばかりが頭のなかを巡っていた。
これから起こることに対して、数ヶ月前のあたしだったら、きっと泣くほど抵抗していただろう。
だけどあたしはもう、そういうことでいちいち騒ぐような段階にはいなかった。
なんかもう、おじさんに触られても、見られても、お兄ちゃんと身体を重ねても、毎日食べるものにありつけて、眠る場所があれば、なんだかそれで十分な気がしていた。
なんでだろうね。なんでなんだろうね。もうね、傷つくことに疲れたの。こんなことで苦しんでいる場合じゃないの。
「……ユキちゃんはさ、どうしてあの兄の言うことを聞くの?」
部屋に向かうエレベーターのなかで、田中さんが聞いてきた。
ふわり、ふわり。正常な思考なんてどこにもなくて、ただ頭の中を埋め尽くしていたのは兄の姿だった。
「お兄ちゃんだけが、あたしをたすけてくれるのー」
「身体を売ることを強要されているのに?」
ふわり、ふわり。あたしの正しさは、お兄ちゃんのもの。お兄ちゃんの言う通りにしていたら、生活がマシになるの。
「あたしがやりたくてやってるの。田中さん、こうやってあたしを買ってるくせに、偉そうなこといわないでね? これから、たのしいことするんだから、そんなこと、どうでもいいでしょー?」
ふわり、ふわり。無関係な他者が何を言おうと、あたしはお兄ちゃんのモノだった。
あたしたちは部屋に入ると、欲望を貪りあった。
お父さんくらい年齢が離れている、すこし汗のにおいがキツイ田中さんは、あたしみたいな子どもに欲情してて、ちょっとおもしろかった。
右腰に広がる根性焼きの痕を見て、田中さんはすこしだけぎょっとしていたけれど、すぐにそれから目を逸らし、田中さんは自分の熱に夢中になった。
貫かれた欲望に絶望しない自分のほうが、目の前の大人よりもよっぽど、大人になったような気がしていた。
だって、あたしはぜんぶ知ってる。人間の汚さ。本能の雄々しさ。そして、憎悪という名の愛を。
こんな世界に比べたら、地獄なんて生ぬるい。ねえ、だれかあたしを地獄に連れて行って。
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