抑圧の少年(塩田雪)

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 ごめんなさい、と頭を下げると、母はいったん、ティッシュをテーブルの上に置いた。まあ、そうだろう。母の目的は最初から、煙草の空箱にある。 「それでね、雪くん。これはいったい、どういうこと?」  母親が掲げる、ピースのライト。紛れもなく俺がいつも図書館裏で吸っているそれだった。ああ、最悪。たまたま家でパッケージを捨てた瞬間に、母親に拾われてしまうとは。 「……ごめんなさい」 「ごめんなさい、じゃないの。説明してって言ってるの」 「勉強のストレスで、」 「テストで満点がとれないような勉強しかしてないのに、何がストレスなの? そんな言い訳、テストで満点とってから言ってくれないと、困るのよ。最近、たるんでるんじゃない? お菓子食べて、エッチなこと考えて、こんなことまでして! ご近所さんにどう思われると思ってるの!?」  ほら、全部世間体。よそから見たウチのことしか考えてない。俺が毎日、何をどう思って生きているかなんて、興味もないのだ。 「この間の定期テストなんて、平均点が前回のよりも2点下がってた! なのに全然やり方を改めようとしないし、毎日どこかほっつき歩いてる! ねえ、授業が終わってから家に帰るまで、20分もかからないはずよね? どうしていつも、何十分も時間がかかるの? お母さんね、この前、買い物の帰りに見たの。雪くん、女の子と一緒に歩いてた。そんなことにうつつを抜かしてたら、医学部に合格できるわけないでしょう!? 煙草なんか吸って! あなた、普通の努力すらできないの? お父さんは立派なのに、どうしてお父さんみたくなれないの!?」  キン、と甲高い母の怒号が耳に響く。低くて落ち着いた(せい)の声とは大違いだ。どうしよ。静に会いたい。ミントの飴で俺の機嫌とってよ、静。  飛散する会話の矛先。母の怒り。ああ、始まった。母親のヒステリー。  それに、静のこと、わるく言わないでよ。全部、俺のせいだよ。だけど、そんな俺を産んだのはおまえだろう。
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